生意気でごめん、先輩



そりゃあ、部活に入るために教えた。それなりにお世話にもなったし。
俺が黙っていると綴先輩の「へえ」と低い声がそこに響く。

「そ、分かった」

せっかく繋げた手が離れていこうとするので、俺はぎゅっと力を込める。その瞬間、綴先輩が俺の体を引き寄せた。

体がバランスを崩してそのまま視界がくるりと変わる。気づけば背中が床につき、天井と綴先輩が視界にうつる。え、なにごと。

「一星は、ずるい」

「な、なにが、てかあの、なんで俺押し倒されてるんですか」

「生意気だから」

「理由になってないですよ」

むっとした顔をしている綴先輩。そこでやっと気がついた。ああ、この人、もしかして嫉妬しているのか?と。え、妬いてんのこの人。だとしたら尊すぎる。そんなこといったら怒られそうだけど。


「俺の駆け出しの夢なんて聞いたところで面白くないです」

「面白い、面白くないの問題じゃない」

「でも…まだ、ちゃんと決めたわけじゃ」

「その定まってない目標の状態でも原瀬さんには言うの、じゃあ原瀬さんと付き合えよ」

「なっ、」

なあにを言っているんだこの人は!
俺は、床に落ちた手を綴先輩の頬にぺちっと置いた。

「そういうこと、言わないでくださいよ。俺が好きなの、綴先輩だけです」

「……」

「綴先輩」

「…ごめん」

「許す」

素直に謝った綴先輩に、俺はくすっと小さく笑った。
そして、綴先輩の頬に手を添えたまま俺は小さく息を吸った。綴先輩はおそらく言うまで俺を逃してはくれないだろう。まあ俺的には幸せすぎるからこのままでもいいのだけれど。

「…脚本家、シナリオライターっつうの?目指してみたくて」

綴先輩の瞳がパチリと開く。予想外だったのだろうか、きっかけを話さないといけない状態になってきている気がして顔にどんどん熱が溜まっていく。

「最初は、綴先輩の笑顔が見たいっていう好奇心で文化祭の脚本を引き受けて、でもやってみたら意外と楽しくて、だから、その、本気で向き合ってみるのも悪くないかなって、まだ模索中ですけど」

「一星…」

「まあ、きっかけとしては綴先輩のおかげなんで、ありがとう、ございます」

語尾がどんどん消えかかっていき、思わず綴先輩から視線を逸らした。なんだこれ、意外と恥ずかしいな、逃げたくなってきた。

「もっ、もういいだろ、勉強の続きを、っん」

背けた顔を綴先輩の片手によって強制的に戻され、そのままキスをされる。
なぜこの人はいつも不意打ちなんだろうか。

俺の心臓を破壊する気か。



綴先輩の手が首からなぞるようにゆっくりとおりていく。なんだかくすぐったくて身を捩るがそれでも逃してはくれない。

深いキスが俺を抵抗させないようにしているみたいだった。

「はっ、つ、づりせんぱい、まじで、一回待って」

「待たない」

「勉強するって言ったじゃん」

「…一星が悪い」

「なんで俺なんですか、俺何もしてないっ」

「そ、じゃあ無自覚に煽ってんじゃない」

ーーーそれは綴先輩だって同じだ。
俺の腹あたりまでおりた綴先輩の手が、素肌に触れた。綴先輩の手は少し冷たい。

「…あっ」

「一星」

対抗するために触れていた綴先輩の肩。
またキスをされて、名前を呼ばれて、もうどうでもよくなった。
ゆっくりと綴先輩の首に腕をまわす。
触れた手が、試すように素肌を散歩する。

俺、このまま綴先輩と、って本気で思った。

ーーーが、凄まじい足音が聞こえてきて我にかえる。
走るような音で確実に俺の部屋の方に向かってきている。
綴先輩も俺から唇を離した。そして「まさか」とその口が小さく動いた。

荒々しい足音から自ずと誰が来るのか察しがついているようである。

人間、そう簡単に解決策なんてすぐには出ないものでこの状況を打破するにはこの方法しかなかったのだと思う。


「一星!!、すごいぞ!ウイッチ2の抽選があたっ……何してんの、お前ら」