「よくこんな絶品のオムライスをそんな無表情で食べれますね」
綴先輩の黒い瞳が再び俺をうつした。兄貴が隣で俺の頭を叩こうするのを俺は片手で止めて、「けっ」と笑う。
「俺こう見えて料理得意なんすよ、それ美味いでしょ綴先輩」
「…ああ」
「じゃあ、そういう表情してみてください」
「表情?」
「そう、こうやって」
俺は兄貴と腕をぽーいっと投げるように下ろした後、己の頬に両手をあてる。よくテレビの中で食レポしている女がよくやっている感じのあれだ。
「おいし〜って」
手で押し上げられた口角をそのままに俺は若干首を傾げてそう言う。
隣で兄貴が吹き出した。
「きっしょ!」
「てめえは黙ってろ、ほらやって、綴先輩」
綴先輩は少し困惑したように瞳を泳がせた。「え、やるの?この俺が?」と。まあ求められたこともないのだろう。そもそもこの人他人に興味なさそうだし。誰にどう思われようがどうだっていいって感じだ。
だが俺は、どうにかしてこのポーカーフェイスを崩したいのだ。
「バカ、綴はそういうキャラじゃねえんだよ同じクラスでも笑った顔すら見たことないんだから」
「だからこそ見たいって話だ」
「なんで今日初めて会ったお前が綴にそんなに突っかかってんだよ、まじでお前学校中の女に殺されるぞ」
「上等だ、かかってこいやあ」
「そうやっていきってるヤツが最初に殺されんの!ホラー映画とかでお前最初に死ぬキャラだな!」
「それお前な!」
「死ね!」
「お前が死ね!」
「…美味しいー」
「え」と兄貴と声が重なる。ぱっと綴先輩の方をみるとすでに頬から手が離されていた。はっ、しまった、またやってしまった。
綴先輩の顔はすでに無表情に戻っている。
「綴先輩、もう一回」
「…やらない」
「お願いし」
「やらない」
頑なに断られて俺は上げかけていた腰を力無く椅子に戻した。やっぱりこの先輩は謎すぎる。



