「なんでそんな影の薄いところにいるんですか、やっぱ立ってるだけで声かけられるの嫌だからですか?隠れみの術ってやつ?」
「うるさい」
軽く額を小突かれる。先に歩き始めた綴先輩の横に走って並んだ。
「今日俺の家来ますよね」
「勉強な」
「…分かってますよ」
少し口を尖らしてそう言う。分かってるし、綴先輩は受験生だから、あんまり俺のわがままを押し付けてはダメだ。でも、でもさ、やっぱり恋人になったわけだし。綴先輩の片手が視界に入る。
まあ、誰が見てるか分かんないもんな。
触れるか触れないかくらいの距離で俺は、自分の指先を手のひらの中に隠す。我慢、我慢。
「最近ちょっと肌寒くなりましたよね」
「…ああ」
「綴先輩寒がりですか」
「暑いより寒い方がいいかな」
「ああ、綴先輩って冬って感じするかも。常にひゅおおって周りに冷気漂ってますもんね」
「褒めてないな」
「クールってことっすよ、いい意味です」
「あっそう」
他愛もない話をして、あっという間に俺の家についた。玄関の扉をあけて「どうぞ」なんて。なんか自分の家に帰ってきたのに妙に緊張するのは、綴先輩がいるからで、そんでもって、関係が変わったからだろうか。
「今日、兄貴は友達と出かけてて」
家には誰もいませんって、まあ、だからなんだって話なんだけど、だからなんだって話なんだけどっ!
「…お邪魔します」
丁寧に靴を揃えて家に上がった綴先輩。一度家に来たことはあるが、自分の部屋にいれるのは初めてだ。
そんでもって昨日めちゃくちゃ掃除した。
綴先輩が部屋に入って静かに鞄を下ろす。
そして部屋を見渡した。綺麗にしたとはいえやっぱりどう思われているかは気になる。そして、相変わらず綴先輩の表情はそう簡単に感情を教えてはくれない。
「そこらへん、適当に座っててください」
「ああ、ありがとう」
自分の部屋に綴先輩がいる、好きな人がいる、恋人がいる。
それだけで妙に緊張した。絶対こんな感じになっているの俺だけだ、綴先輩余裕そう。
ぎこちなく、「飲み物とってきます」と一度部屋を出る。
「まあ、勉強だもんな、勉強」
そんな独り言を呟きながら冷蔵庫から飲み物を出してコップに注ぐ。
台所からテレビがある方の空間を視界に入れた。
ああ、そういえば綴先輩と初めてまともに話した時、俺クソ生意気だったな、今もだけど。
なんて、そんなことを思い出して小さく笑った。
「…よく俺のこと好きになったよな、ほんと」
そんなことを呟きながら、コップに注がれたお茶を持って部屋に戻れば綴先輩はすでにテーブルに勉強道具を広げていた。
ぶれないな、この人。
「ありがとう」
「冷たいのが好みだろうと思って、氷死ぬほどいれました」
「ふっ、生意気」
笑った、はい好き。
こんなことでキュンとなってるのも俺だけだ畜生。
俺もテーブルの上に問題集やら教科書やらひとまず置いた。そして広げることはなく、頬杖をついて綴先輩を見つめる。



