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俺と綴先輩は、恋人となった。

「ふうん、一緒に帰るんだ」

「そのにやけ顔やめろよ」

校門で待ち合わせをして、そこから一緒に帰るようになった。今日は、俺の家で一緒に勉強をする約束だってしている。俺からしてみればお家デートみたいなものだ。

心の中はこれでもかというほど弾んでいるが、それは表情に出さないように我慢している。

というのも、教室を出てからずっと原瀬さんが着いてきている。超揶揄い顔で。

「生田くんもにやけてるよ。嬉しさが滲み出てる」

「え、まじ?」

「うん、キモい」

「辛辣」

肘で原瀬さんの腕を軽く攻撃すれば、倍ぐらいの威力で肩でどつかれた。手加減しろっての。

「結局、私たちの劇は動画で観てもらえたんだっけ」

「ああ、兄貴が俺のスマホ勝手に盗んで動画撮ってたらしい」

「なかなかのファインプレーね生田兄」

「まぐれだろ」

「いやいやいや、まぐれにしては出来過ぎだったって。宝探しゲームでスマホのありかを兄から教えられて、行ったら綴秋斗がいるって、どんなドラマ?こんど脚本書いていい?」

鼻息荒くそう言った原瀬さんに俺は苦笑いを浮かべながらも、ずっと原瀬さんに言おうと思っていたことを口に出した。

「なあ、原瀬さん」

「なんだい生田くん」

「演劇部ってさ、まだ部員募集してる?」

「え?なんで?」

突拍子もない質問に原瀬さんは首を傾げた。そりゃそうなるか。

「今回ので、割と脚本とかシナリオ書くの楽しいって思って、どうせだったら本気でやろうかなっと」

原瀬さんは変な顔になった。上がる口角を堪えるようにきゅっと結んで、小さく数回頷く。
正直少し恥ずかしい。本気でやるだなんて、そんなこと思ったことも言ったこともなかったから。

「なんとか言えよ、気まずいだろ。2年からだとやっぱ難しいのか、あ?」

「難しくない、ウェルカム」

「んだよ、ひびった。じゃ、入部届出しとくからよろしく」

「それさ、綴秋斗には伝えた?」

「なんで」

「たぶん嬉しがるんじゃない、きっかけは綴秋斗なわけでしょ」

照れくさくて言えるかってんだ。綴先輩のポーカーフェイスを崩すために文化祭で脚本を書いた。
そんでもって、脚本家目指してみたいだなんて。
なんか、俺、めっちゃ綴先輩のこと好きみたいな、いや、好きなんだけど。

「言えるかよ」

校門まできて足を止める。原瀬さんは俺の幾分か先までまわり込んで身を屈めて俺に人差し指を向けた。

「照れてるー!」

「揶揄うな!はよ帰れ!」

向けられた手を払えば原瀬さんはニヤけ顔で「へえへえ、じゃお幸せに」と軽く手を振って俺に背中を向ける。
けっと笑いながら俺はくるりと校舎の方へと体を向けた。今日も綴先輩が俺を見つけやすいように中央に立つ。

しかし、しばらく待とうという体制になっていたが、校門の端の方にすでに綴先輩はいた。

「わっ、いたんすね」

門の端に寄りかかって腕を組んでいた綴先輩が、「まあ」と返事をして俺の方にゆっくりと近づいてくる。

まさか、さっきの原瀬さんとの会話、聞こえていただろうか。だとしたら恥ずかしいな。