生意気でごめん、先輩



一瞬動画を止めようかと思った。なんか、これ、いや、考えすぎだろうか。そういえば、

ーーー「あ、噂のスペルくん」

一星と親しげに話していた女子が俺にそう言ったのをふと思い出した。スペルって、つまり。

『そんな中、スペル王子は一匹の犬に出会います』

『ワンワン!』

『…なんだ、俺に何か言いたいことでもあるのか』

『ワンワン!』

『何て言っているんだ』

『犬は、地面に何かを書き始めます』

『…僕を、拾ってくれた暁には、あなたを幸せにします』

『そうして、スペル王子は犬を育てることにしました』



「…ふっ」

何とも言えない感情になりながらも自然と笑みが溢れる。これ、一星が作ったのか。
物語が進むに連れ、犬とスペル王子の絆が深まっていくが、実は犬は敵の送り込んだスパイ犬だったことが判明し、戦いが起こるという流れになっていた。

犬は敵である罪悪感に苛まれながらも、スペル王子との絆を裏切ることはない。

そして最後は上半身裸に変なマスクをつけた敵の足元にバナナの皮を置いて転ばして殺すという素っ頓狂な最後である。

思わず吹き出すように笑った。

「ふ、ははっ」

自分の口から笑い声が出ていることが不思議で、だけど止まらない。
はやく、一星に会いたくなった。

会いに行こうと思った、その時だった。

「綴先輩…?」

幻聴かと思ったが、視界に入ったそいつの姿で現実だと知る。俺の名を呼んだ一星が驚いたような顔をして、そして泣きそうな表情になって俺の方に駆け寄った。

「そ、それ、俺のスマホっすよね、てか今あの、笑って…」


一星手を掴んで引き寄せた。抱きしめたとたん、感情が溢れ出る。
今日は、なんだかおかしい気がする。だけど、それも心地がいいものに変わっていた。
もう、いいや、だって好きなもんは好きだし。



「好きだよ、一星」