生意気でごめん、先輩



嵐のように去っていた姉さんを見送って俺は校舎裏の壁に寄りかかった。
もう、一星のクラスの劇は終わってしまっただろうか。
嫌われただろうな、と思った。

「お、いたいた、綴!」

静かな空間にはそぐわないおちゃらけたような口調でこちらに寄ってきた1人の男。
海賊のような格好をしており、髭もつけているが誰かはすぐ分かった。

「…生田」

「何、声ちょっと枯れてない?」

「久しぶりにあんなに声だしたから」

「ああ、噂の年上の女と口論してたもんな」

「…姉だけど」

そう言うと、生田はあからさまに『しくった』という表情をする。一星と一緒ですぐに表情に感情が出やすいなと思う。一星の生意気を言う時の生き生きした顔や、照れくさそうにした顔を思い出した。

また、見たいと思う表情ばかりだ。
俺のポーカーフェイスを崩したいと一星はよく言っていたけれどこういう気持ちだったのかとそんなことを考える。

「なんかごめんだわ、綴」

「何が」

「余計なことしたし、余計なこと言ったかもしんない」

「誰に」

質問には答えない生田がポケットから何かを取り出して俺の方に投げた。
地面に落ちないようにそれをキャッチして視界に入れる。

「…スマホ?」

「一星の」

「は?」

「それ、パスワード1015」

「それ教えていいの」

「一星の劇、撮っといたから見たきゃ見れば。一星のポッケから勝手に取ってきたらあいつ探しにくるかもね」

何を言っているんだと怪訝な顔をした俺に、生田はへらりと笑った。

「これで一星はしばらく俺に頭があがらないな、うっししし」

ふざけたようにそう言うが、こいつは何をどこまで知っているんだろうか、と腹の底が見えないそいつを見つめるが生田は変な走り方で俺から離れていく。

「生田、ありがとう」

その背中にそう言えば、生田は軽く手を上げて走っていった。
再び静かになった空間で俺は、一星のスマホに視界を落とした。
罪悪感を抱えながら、指先は先ほど生田が言った『1015』をおす。

開けば、すぐに動画がうつっている。
薄暗い舞台が映っており、それが生田の撮ってくれた動画だとすぐに理解して再生ボタンを押した。

スマホを横にして、俺は画面を見つめる。

『主人公スペルは、国王の息子でありながら、そのぶっきらぼうさで民衆からは距離を取られている可哀想な王子様であった』

そんなナレーションから始まり、幕が開く。

『スペル王子よ、また無表情で街を視察しているわ、顔はかっこいいのにもったいないわよね』

『家に引きこもって勉学ばかりらしいわよ』


『スペル王子は街中のそんなひそひそ話ももろともせず今日も颯爽と街を歩いていきます』