生意気でごめん、先輩



「ごめん、ごめんね、秋斗」

「…なんで姉さんが泣いてんの」

塗りたくったマスカラが落ちて下瞼が黒く滲んでいる姉。そんな姉が俺の手を握った。
そして鼻をすすりあげて俺を見上げる。

「私ね、出ていった時大学を中退したわけじゃないの」

「…は?」

「医学部、休学したの」

休学?と首を傾げた俺に姉は言葉を続ける。

「父さんの言いなりになって医者を目指してることに嫌気がさしたのもそうだけど、本当に自分のやりたいって思うこととかもう何が何だか分からなくなって母さんのところに行った」

「でもね、でも」と言葉を詰まらせる姉さん。手の甲にいくつもの雫が弾けていく。
初めて姉の本音を聞くような気がした。俺たちはいつも仮面を被っていたように思う。お互いを知ることから逃げた。いつしか、本当の気持ちなんて言える家族じゃなくなっていたように思う。

「…私、やっぱり医者になりたいの。お父さんのためじゃない、自分のために」

「姉さん」

「だから、綴の家は私が何とかする。秋斗は好きな道を行って」

そう言ってぐちゃぐちゃな泣き顔を俺に見せながら真っ直ぐな声でそう言った姉さん。

「これから父さんと話してくる」

「…その格好で家帰んの」

「悪い?」

金髪で、肩とお腹が露出していて、濃いメイクは涙で崩れてしまっているが俺は小さく笑った。
そして首を横に振った。


「…いいと思う」