きっと中途半端な自分にバチが当たったのだと思った。もうすぐ一星の作り上げた劇が始まるので、体育館に行こうとしたその足が目の前に現れたその人によって阻まれた。
家を出ていった時は黒髪だったが、眩しいほどの金髪に染め上げており服装も完全に真逆になっているその人。
見えているお腹にピアスが空いていた。
「ハロー秋斗」
「…姉さん」
なんでここにいるんだよ、と姉を睨みつける。もう3年ほど会ってはいなかった。
父が追い出したも同然だったが、姉も姉で家に嫌気がさしていたのも事実だった。
姉がいなくなったのは、母が出て行った数ヶ月後のことだった。
「元気だった?こっち帰ってきたらさ、秋斗の高校文化祭やってるって聞いてきちゃった」
「帰って」
「なんでよ」
姉の横を通り過ぎようとしたが、腕を両手で掴まれて俺は眉間に皺を寄せる。これから大事な用があるのに。
「ごめんけど、一旦家に行って。そこで父さんと一緒に話そう」
「その前に秋斗に話したいことがあるの」
「俺はききたいことはない」
「これからの大事な話よ」
「今さらなんだよ」
荒々しい口調で放った言葉は、怒りを隠しきれていなかった。途端に周りの目が気になる。
ほら、感情は見たくないものを俺に見せてくるようになる。
俺は自分を落ち着けるように息を吸って吐いた。
子どもみたいに駄々を捏ねたって、逃げたって何にもならない。
「…場所、変えよう」
俺は、最低なやつだと思う。一星は俺のことを探すんだろうか。約束も守れないやつだと幻滅して、離れていってしまうのだろうか。
せっかく、俺のことを知りたいって言ってくれたのに。
人の目が届かない校舎の裏側に来た。表側では盛り上がるような声が聞こえてくる。
足を止めた俺の前に腕を組んで立つ姉。
「アメリカに行ってたの」
「だろうな」
姉の格好をみていれば何となく分かる。真面目で、清楚な雰囲気を纏っていたのは父にそうしろと言われていたからで仮面だったのだろう。
「お母さんも、アメリカにいる。一緒に暮らしてたの」
「…そ」
「母さんね、本当はバリバリ働きたかったんだって。今ねあれでも楽しくやってんのよ」
「…別にどうでもいい」
「ごめんね、楽しくとか言われても秋斗にとってみたら捨てられたって思うよね」
「どうでもいいって言ってる」
震える拳を俺は片手で覆う。父さんから追い出されて大変な思いをしているかと不安だったが、姉の言葉で安堵を覚えたともにじゃあなんで俺には何も言ってくれなかったんだと怒りも湧いてくる。
「秋斗は、感情を表には出さないから勝手にこっちが『大丈夫だろう』って思い込んじゃってた」
「でもね」と姉が鞄から何かを取り出す。
「これ、家に帰ったら見つけた」
目の前に出されたのは父に見られた模試の結果。
俺がゴミ箱に捨てたそれは容易く誰かに拾われていた。あの時確実に捨てたと思っていたのに。
「医者、ならないのね」
「っ、なるよ、なるから文句ねえだろ、そんなの早く捨てて」
掴もうとしたそれを姉はすっと避ける。もう、関係ないくせに、出ていったくせに今更何なんだよ。
込み上げてくる感情が、爆発するな、するなと思い込むほどに隙間から溢れ出てくる。
「…ざけるな」
「秋斗」
「俺は大丈夫って、そう思ったんならもう放っておけばいい、自分の好きなことして、綴の家のことなんて忘れて生きていけばいいだろ今さら現れてなんだよ」
「秋斗、私は」
「俺は医者になりたくないわけじゃない、それ以上にやりたいことがある、それだけなんだよ」
吐き出した。
吐き出してしまったというほうが正しい。言葉に出してしまえばそれが誰かに伝わってしまえばもう、後戻りなんてできないのに。
「…父さんも、母さんも、姉さんも嫌いだ」
ーーーでも、
「気持ちをぶつけられない、自分が、1番ムカつく」
片手で顔を覆う。
中途半端なのは、気持ちを隠すため。
感情を隠すのは、自分が完璧じゃないことがバレるのがこわいから。
好きは、エゴだ。



