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みっともなく、嫉妬したのだと思う。
なんてことない昼休み、渡り廊下を歩いていると視界の先に一星の背中姿を見つけた。
足を止めて、誰かと話している様子だった。
それは小柄な女子であり、その華奢な手が一星に触れる。
「一星」
思わず名を呼んだ。
一星がこちらを振り返った。なんとも複雑な表情だった。
あれから俺たちには何もなくて、今、一星の横には女子がいる。親しげで、きっと、俺が一緒にいるよりこの子の方がずっといい。
「え、ちょっと待って」
掴まれた手を振り払った。一星が傷ついた顔をして、やっと後悔をする。
だけど、後戻りができない。
「どうでもいい」
どうでもよくはない。だけど、素直になれない。
俺はいつも中途半端だ。
振り返ることはせず、早足で階段を登って教室へと入った俺はそのまま席に座って問題集を机の上に出す。
もう何も考えたくなかった。感情に振り回されたくない。嫉妬なんて、何も意味を成さないことなんて分かっているのに、なんで心に蔓延る黒いモヤモヤを消すことができないのだろう。
「よっ、綴」
放っておいてほしい気持ちの時に限って絡んでくるやつもいる。そんで嫌でも一星のことを思い出してしまうような顔が俺の席の前に立った。
「生田」
誰とでも仲が良くて、分け隔てなく接してくる生田。思えば、こいつがいなければ一星とも関わることはなかったかもしれない。そう思うと心臓が針でちくりと刺されたように痛い。
「なんか暗くね」
「…お前の弟のせい」
「一星?なに、なんかあった?」
「別に、彼女できて楽しそうだった」
「え、あいつ彼女いんの」
「…知らないよ」
「さっき綴が言ったんじゃん」
「うるさい」と机に瞳を向けて頭に入ってこないくせに問題集を広げた。
「そういえばさ、綴」
「なに」
空いている前の椅子に跨って俺の方の机に肘をついた生田。
「お前、文化祭くる?」
「…なんで」
「俺たち、宝探しゲームするだろそれの当番なんだけど」
「パス」
「なんだよ、高校生活最後の文化祭だろ」
「興味ない。準備はある程度手伝うから文句ないだろ」
「はいはい。でもさ、ぶっちゃけ俺たちのやつはどうでもいいから一星のために文化祭来てやってよ」
「…なんで一星のため?」
そう聞けば、生田は意味深な笑みを浮かべて立ち上がる。
「なんか言えよ、生田」
笑みを崩さないまま数回頷いて去っていくそいつを俺は「おいって」と引き止めるがやつはそのまま別のグループの奴らに絡みにいく。
意味不明なそれは、数日後になんとなく理解をすることになる。
「文化祭、劇やることになったんで、見にきてください」
「劇?」
「俺、脚本書いたんです。初めてだったんすけど、これが意外と楽しくて」
ーーーそういうことか。
一星が頑張っている何かがあるということを知って嬉しくなった。それと同時に自分は何をやっているのだろうと思う。
なのに一星は容赦なく俺を真っ直ぐな目で見つめてきた。
「綴先輩がいなかったら、こういう感情にもなってないから」
「…俺、何もしてない」
「してますよ、たくさん。みにきてくれたら分かります」
そう言って笑った一星。死んでもいくよと言おうとしたが、その口は一星の少し震えている唇で優しく塞がれる。
心臓の音は、どちらのかなんて分からない。
「…こ、この前の仕返し」
抱きしめたくなる衝動を必死に抑えた。
「…生意気」
俺は、一星のことが好き。



