生意気でごめん、先輩



「木、藻、N、見よ」

書かれているそれをそのまま口にする。そして「はあ?」と首を傾げた。
原瀬さんも難しげな顔をしてそれを見つめる。

「き、も、ってなんだろう。はっ、キモいってこと?」

「いきなりそんな蔑んでくるか?生徒以外の一般客もくるんだぞ」

俺は辺りをひとまず見渡した。上の方には細い木の枝が何本も生い茂っており、ああこの小道具、綴先輩も手伝ったのかなとかそんな無駄な感情が覆っていく。
もう俺、なかなかの重症かも。

俺がこんな感情にさせているのもつゆ知らず先輩は年上の女とって、なんかやっぱり腹立つ。

綴先輩への怒りが込み上げていく中、木の枝に何かがぶら下がっているのが視界に入った。

「なんかある」

「なに?お宝?」

「さあ」

手を伸ばしてそれを取って手のひらに乗せる。原瀬さんが小さな声で「コンパス?」と呟いた。
方角を示すことができるコンパス。少し古めかしいデザインになっている。

もう一度原瀬さんが手に持っている紙をみた。


「原瀬さん」

「なに」

「鬼門じゃね、これ」

「きもん?」

「古文で習ったじゃん、鬼門。文字通り、鬼が出入りする方角」

「え、生田くんなんでそんなの知ってんの」

「国語は割と得意なんだよ」


そんなことはどうでもいい、と原瀬さんが持っている紙を奪い取ってコンパスと並べる。さっさと終わらせてやるこんなの。

「『鬼門、見よ』だろ。確か方角は北東だった」

コンパスを置いて、北東の位置を確認した。そしてその先にあるものを目で追う。
暗闇で紛れてはいるが小さな赤い鳥居がそこにあった。

「和なのか洋なのかは統一した方がよさそうよね」

「考えるのもだるかったんだろ、受験生だし」

そう言って簡易に作られた鳥居の前にしゃがんだ。
そこに手を伸ばした瞬間である。

コロコロと転がってきたボールが俺の足に当たる。

「ん?」

水色の子ども遊び道具のような小さなボールであった。まさかこれが宝とか言わねえよな。
そう思いながら手でそれを掴む。

「何だった?」

「ただのボールっぽい」

「爆発すんじゃない?」

「ダメだろそれ」

なんでそこだけスリリングにしてんだよ。と笑っていると原瀬さんが隣でそれを覗き込むようにして身を屈めた。

「なんか書いてあるよ」

「あ?」

くるりとひっくり返してそれを見てみると確かに何か書いてある。
天井から吊るされている小さなライトに照らしながらそれを俺はゆっくりと読んだ。

「お前の探し物は、校舎裏にある」

ただ読んでそれを脳内にインプットして理解するまで数秒。そしてそのマジックペンで書かれた汚い字が兄のものだと気づくのに数秒。

俺は原瀬さんと顔を見合わせる。

「スマホのことだったら俺は先に兄貴を殺しにいくべき?」

「いや、校舎裏に行くべきだと思う」

「なんで」

「…女の勘」

「早く行って」と原瀬さんから背中を押され俺は走った。もう、何が何だか分からなかったが、そこに大事なものがある気がしたから。