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非日常の香りがする。
いつもより薄暗くなった体育館に、いろんな人が集まり舞台だけがライトで照らされている。
緊張と高揚が入り混じる中で俺は舞台の袖から顔を覗かせた。
「暗くてよく見えねえ」
綴先輩は来ているだろうかと探すがそもそも舞台袖からは顔がよく見えない。
「生田くん、皆んなで円陣組もって言ってるけど」
「ああ、今行く」
話しかけてきたのは演者としては舞台に上がらないためいつもの制服、メガネ姿の原瀬さんである。
「もしかして綴秋斗探してんの?」
「まあ…観に来いって言ったし、大丈夫だろ」
「どうだろうね、こういう時にハプニングって起こるものだし」
「そういうこと言うなよ」
ため息混じりそう言って皆んなが待機しているところまで原瀬さんと移動する。
舞台袖と繋がっている外に出れば、うざったいぐらい快晴であった。
体育館の薄暗さとのギャップに思わず目を細める。
ついに文化祭、本番である。
「頑張るぞー」「おー」とひねりも何もあったもんじゃない円陣を組んで各々がスタンバイをし始めた。
俺も演者としては出ないため照明として手伝いをすることにはなっている。というのも、手っ取り早く綴先輩を探すためであった。
体育館には思った以上に人が集まっており、そこから1人を見つけるのは至難の業であるが綴先輩であれば見つけられそうな気がする。
「おお、盛り上がってんなあ」
裏で入り口から体育館上にある照明の場所へ入ろうとした時、そんな声が聞こえて俺は足を止めた。
「兄貴」
ヘラヘラと笑いながら俺に近づいてきたのは兄貴だ。
うわ、絶対からかいにきたなこいつ。
「聞いたぜ、脚本したんだって?」
「うるせえな、誰に聞いたんだよ」
「綴」
「っ」
「うそ、母さん」
「しょうもねえ嘘つくなよ、母さん知らねえだろ」
「いやいや、お前家帰ってずっと頭悩ませて書いてたのバレてたから。俺は興味なくて知らんかったけど」
「そうかよ、準備あるからもう行くわ」
「クソ兄貴」と口癖のように語尾につけて歩き出そうとすれば、がっと勢いよく肩を組まれた。
「おい、なんだよ!離せ」
「綴、ちょっと来れないかも」
「はあ?」
「なんかトラブってるっぽい」
言霊だろうか。先ほどの原瀬さんの言葉が脳裏で響いた。トラブってる?なんで?よりにもよって文化祭の日に?というか、どういうトラブル?
「年上の女となんかもめてた」
「年上の女…」
「まっ、頑張れよ!」
へらりと笑って俺の肩から腕を離した兄貴はポケットに手を突っ込んでその場を去っていく。
おい待たんかい!このタイミングで言ってくるのあいつ性格悪すぎんだろ!!
と、その背中姿をどつきまわしたい衝動に駆られる。
「生田くん!本番始まる!早く上あがるよ!」
扉から顔を覗かせた同じ照明担当の女子が急かすように俺にそう言って俺はぐちゃぐちゃになった頭の中を軽く振って頷いた。
大丈夫、綴先輩は絶対来る。そう言い聞かせた。



