階段を駆け降りて、上履きのまま外に出た。
小さく見えるその背中を必死に追いかける。
「綴先輩!」
綴先輩が門をでたところで、俺は叫ぶように名を呼んだ。足が止まり、こちらを振り向く。
少し驚いたように、その口が小さく「一星」と動いた。
俺は肩で息をしながら綴先輩に近づく。
勢いできてしまった、なんて言おう、なんて言うのが正解なんだっけ。
「『どうでもいい人』が呼び止めてすみませんね」
ああ、不正解。
クソ生意気なことを言った自覚はある。もはや嫌味。
「…この前のこと、」
「ああ、いいです。すみません喧嘩売りにきたんじゃない」
俺は瞳を地面に落とす。そして深呼吸をした。
顔あげて、綴先輩を真っ直ぐと見つめる。
言え、生意気な言葉で包まず、伝えたいことだけを。
「文化祭、劇やることになったんで、見にきてください」
「劇?」
「俺、脚本書いたんです。初めてだったんすけど、これが意外と楽しくて」
少し声が震えていた、そうか俺、緊張している。
本音を言おうとすると、こうなるんだ。
「綴先輩がいなかったら、こういう感情にもなってないから」
「…俺、何もしてない」
「してますよ、たくさん。みにきてくれたら分かります」
そう言ってまたゆっくりと綴先輩に近づく。
ルール違反だけど、これくらいは許してほしかった。
だって、花火の時だって不意打ちだったし。
綴先輩のネクタイを掴んで引き寄せる。
「っ」
触れた唇は一瞬で、俺は離したあと軽く笑う。余裕さを見せつけるためだったが心臓の音がたぶん聞こえているので無意味だ。
「…こ、この前の仕返し」
そう言って俺は綴先輩のネクタイから手を離す。
綴先輩は、小さく息をもらした。
「…生意気」
そう言った綴先輩に俺はべっと舌を出して背中を向けた。
そして逃げるようにまた走り出す。
誰が見ているかもしらないところで俺はなんてことを。
衝動的な感情はこわい。
ーーー「そういうことなんで、しばらく手つなぐとかキスとかそういうのなしで」
どの口が言ってんだって話だ。



