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「なかなか面白いのができたんじゃねえの」
ついに準備が始まった。クラス全員に俺が書いた台本が配られ、役が決まり本格的な練習に入る。
俺の役目は一旦終わり、演劇部の原瀬さんが監督となりみんなをまとめることになった。
俺の仕事はひと段落したところで、教室の端で小道具の準備をしていると同じクラスの友人、日下部が俺に話しかけてきた。俺は日下部の全身を上から下までみて言葉を放つ。
「日下部、お前何役?」
「見りゃ分かんだろ、主役のスペルをボッコボコにする敵役」
「俺そんなプロレスラーみたいなヤツイメージして書いてないけど」
「俺柔道部だから上半身は脱げって原瀬さんからの指示」
「顔なんでマスクしてんの」
「体つきに反して童顔だからマスクしてろって原瀬さんの指示」
「世界観壊れそう」
「そこは俺の演技力でなんとかしろって原瀬さんが」
「ああそう」
まあ、原瀬さんのあの圧で指示されたら確かに断れないだろう。俺は苦笑いを浮かべて隣に立っているプロレスラーの肩を「どんまい」と軽く叩く。
「脚本って、本当に生田が書いたん?」
「ちょいちょい原瀬さんのアドバイスもらいながらだけど、まあ、そう」
「そうなんだ、お前意外とそういうの才能あんだな」
何気ない一言。今まで誰かにそういうことを言われたことがなかったため「別に」となんとも反応しづらい返しをしてしまう。
結局、俺は『綴先輩を笑わせたい』という根本的な欲を曲げることはなかった。
主人公だって、完全にキャラが綴先輩だし。
だけど、この数日間物語を作り上げること自体に苦痛だと思ったことはない。
これで、皆んなが、綴先輩が感情を爆発させてくれたらいいな、と純粋に思った。
「でも生田みたいな一軍のやつが、原瀬さんみたいな子とつるむの意外だわ」
「んだよそれ、そういうのどうでもいいわ」
「俺、お前のそういうところ好き」
「変な白マスクつけてる上半身裸男に告白された…」
「人として尊敬するって話をしてんだろ、投げ倒すぞ」
「その格好で言われると冗談に聞こえないから。ほら、さっさと練習しろ」
そう言って俺は日下部の背中を押す。そして嬉しさのこもったため息をつきながら窓の外を見た。
「あ」
綴先輩。
文化祭の準備が本格的に始まっているこの数日。
授業は終わっているタイミングのため、綴先輩は帰っているようだった。その足がまっすぐと校門の方へと向かっている。
ーーー『どうでもいい』
あの冷たい言葉が脳裏をよぎる。
走って追いかけても、どうせまたあしらわれるだろうか。
そんな不安とは裏腹に、俺の足は走り出していた。



