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「形にはなったけどさ、もっとこう戦うシーンで迫力欲しいよね」

「んなこと言ったって本物の剣使うわけにはいかねえだろ」

「分かっとるわそんなこと」と荒々しい口調で言った原瀬さん。あれから脚本作りはちゃくちゃくと進み、ほとんど完成はしていた。

あと約1ヶ月。役決めなどもあるため早めに仕上げないといけない。

たかが文化祭で何を熱くなっているんだと過去の自分が大笑いしそうだなとふと思うことがある。
だけど、ゼロからイチにする作業は純粋に楽しかった。
先ほど購買で買ったパンを教室に帰るまで我慢できずに齧りながら、原瀬さんと並んで歩く。

「明日のホームルームまでには台本配れそうだな」

「そうね」

原瀬さんがパックのオレンジジュースを飲みながらちらりと俺の方を見て軽く笑った。
俺の正面まできて足を止める。「なんだよ」と顔を顰めた俺に原瀬さんは自らの右頬を人差し指で指した。

「生田くん、パンのくずついてるよ」

「え、まじ?どこ?」

「逆逆」

「示してる方がややこしいんだよ」

「わたしが右示してんだから、あんたも右でしょうよ」

「とれた?」

「まだ、ちっ、めんどくさい男だな」

「腹立つ言い方だな」

原瀬さんの手がこちらに伸びる。そして、荒々しく俺の頬を軽く払った原瀬さん。ちょっとビンタみたいになってて痛いんだが。

と、

「一星」

期間的にはあまり経ってはいないが、その声が随分久しぶりに聞こえた。後ろを振り返るとあいもかわらず無表情の綴先輩だ。
「綴先輩!」と駆け寄りたいところだか原瀬さんもいるし、何せ告白するまでは触れないと決めてしまった以上むやみには近づけない。

「あ、噂のスペルくん」

「バカ!いらんこと言うな」

原瀬さんの口を塞いでそう言えば、原瀬さんは荒々しく俺の手を払う。「パンくせえ」と暴言つき。
一旦原瀬さんは無視して、俺は綴先輩の方に一歩近づこうとすれば、綴先輩は俺の横を通り過ぎていく。

「え、ちょっと待って」

反射的に、だった。通り過ぎていこうとする綴先輩の手を掴んだ。だが、それは一瞬にして払いのけられてしまう。

綴先輩は、冷たさを帯びた瞳を俺に向けていた。

「…なんか、怒ってますか」

静かな俺の問いに、綴先輩は黙ったままだ。
なんだよ、名前呼んできたのそっちじゃん。舞い上がってバカみたいだ。
自分の発した言葉が枷になってもっと近づきたいのに近づけなくなってもがいている自分。

そうやって、必死になっているのは自分だけ。別にいいし、見返り求めてるわけじゃない。所詮は俺のエゴだ。

「なんで何も言わないんすか。俺と話したくて声かけたんじゃないんですか」

そう言って綴先輩に詰め寄る。なんて答えてほしいかなんて明確だ。「そうだ、一星と話したかった」そう言ってほしいだけ。それが、本心であってほしいだけ。