「原瀬さんは演劇部で脚本やってんの?」
「うん。時々演者もやってる」
「すげえ二刀流じゃん、大谷翔平じゃん」
「やっだもう!」
「いて」
中々の威力で肩を叩かれて俺は苦笑いを浮かべる。
それにしても、なんでこの人俺に話しかけてきたんだろう。賑わっている教室では絶対に話しかけては来ないのに。
脚本が俺になってなんで私じゃないんだと怒っていると最初は思ったが存外そうでもない。だとすれば、
「原瀬さん、なんかアドバイスとかくれる感じ?脚本の書き方とか」
「いや、普通に脚本マウント取りにきただけ、素人だろうから」
「性格悪」
「あら、これは何?毛虫?毛虫が主人公なの?」
白紙に書かれたくるくるの線を指差して眼鏡をおしあげながらそう言った原瀬さん。性格悪う。
「うるせえな」と消しゴムでそれを消した。
「だいたい、いきなり書き始めようだなんて素人が無理に決まってんでしょ、テーマも決まってないのに」
「ちまちま準備するのが性に合わねえんだよ、降ってきたものを一気に感情のままに書いて完成させてえの」
「天才芸術家気取りやめてくんない?素人のくせに、はっ倒したくなるんだけど」
俺の手に持っているシャーペンを奪いとる原瀬さん。
返せと手を伸ばせばそれはひょいと避けられた。
そして原瀬さんは目の前にある紙を自分の方に寄せる。
「中心に、1番書きたいことだったり、主体になる感情や事柄を書いてみるのよ」
「主体?」
「そっから連想ゲームみたいにでてくる世界観やキャラたちを決めていくの」
「へえ…」
連想ゲームか。
原瀬さんがシャーペンの先を紙に何度かバウンドさせる。俺の答えを急かすように放課後の教室に音が響く。
「綴先輩を、笑わせたい」
「…はい?」
「まずその主体?、中心は、綴先輩を笑わせたい」
「はい?」
「貸せ、俺が書く」
原瀬さんは軽く笑いながら「いやいや」と俺の伸ばした手から避けるように腕を後ろに引いた。顔も引いていた。
「綴先輩って、あの綴秋斗?」
「え、原瀬さんも知ってる?」
「知ってるも何も有名人じゃん、学校1イケメンの人でしょ」
「あの人、やっぱそういう立ち位置なんだ」
原瀬さんも知っているのか。やっぱ綴先輩ってすげえんだ。なおさら俺なんかが手繋ぐとかキスとかそういうのおかしいのかな。
俺は綴先輩のこと、アクセサリーとか考えたことはない、そもそも女じゃねえし。
だが、逆にあの見た目のせいで引き目を感じているのは事実だ。俺より、きっといい人がいるんじゃないか、とか。
俺が男だからというのももちろんあるけど、俺綴先輩と違って何もないし。
何もない俺が、今唯一夢中になっていることが綴先輩のポーカーフェイスを崩したいという欲。
「『あの人、やっぱそういう立ち位置なんだ』という発言、なんですか?自分はちょっと優位に立ってますよアピールですか?あなた、綴秋斗の何なんですか?」
「圧がこわいんだけど、原瀬さん」
俺は綴先輩の何なんですか?そんなの俺が1番ききたい。こんなことをやって付き合えるとか、恋人になれるとか、綴先輩の特別になれるとか、そんな保証はどこにもないのに。



