生意気でごめん、先輩



まあ、現実的に考えて簡単に脚本ができるわけもなく俺は放課後の教室で頭を抱えていた。

まっさらな紙にシャーペンを動かしていく。くるくるとバネのように線を連ねていきながら芯を無駄にしていく。
綴先輩の感情をみたいけど、そうとう面白いのをつくらないと絶対に無理だ。

「ぐわああ…」

俺はなんであんなことを。さっさと告白しておけばこんなことにならなかったのか、いや、でもあそこで状況をうやむやにするのも絶対に違ったよな。だって、綴先輩が俺のこと好きとはかぎらないし。

どんどん身が机に沈んでいく。自信が急降下してい中、ガラッと教室の戸があく音がした。

顔をあげると、視界に入ったのは1人のクラスメイトであった。

「原瀬さん?」

名を呼べば、原瀬さんは眼鏡を人差し指で押し上げながら俺の方に近づいてくる。
クラスメイトでもほとんど話すこともないため若干警戒して身構えていると俺の席の前に立った原瀬さん。
再度大きめな眼鏡をおしあげて口を開いた。

「それ、脚本?」

「え?」

「脚本書こうとして行き詰まってる?」

そう聞かれ、俺は困惑しながらも頷く。
すると原瀬さんは机を挟んで俺の前にある椅子を荒々しく自分の方に寄せると腰を下ろした。え、座るんだ。

「わたし、演劇部。おたくは何部?」

自分の方に人差し指を向けたあと、その指が次は俺の方に向く。

「俺は、帰宅部」

「ほお、じゃあなぜ脚本に立候補を?」

窓から入ってきた虫を追っ払ってたら決まってました、とは言えない圧。

だが、後から結果オーライな理由がついてきたので、やる気だしてます。今急降下してるけど。

「脚本やってみたいな、と思ったから」

「理由うっすう」

要約して言葉を放った俺に原瀬さんは片手を自分の顔面に添えて呆れたようにそう言う。
薄くて悪かったな、俺だってうっすい理由なりに必死なんだけど。
綴先輩のポーカーフェイスを崩したいからとはさすがに言えなかった。それこそキレて早口で捲し立てられそう。
なんとなくだが、原瀬さん脚本やりたかったんじゃないだろうか。

だが、決まったからには譲れない。


「原瀬さんはなんで立候補しなかったんだよ」

「私の脚本に皆んなの演技が着いてこれるか心配だったから」

うへえ、すげえってかやばいこの人。


「今『やばいこの人』って思ったでしょ」

「オモッテナイヨ」

「あなた嘘つけないから演者には向いてないね。脚本で良かったんじゃない?」

「え、嫌味?」

「まさか」

肩を上げて挑発するような顔をした原瀬さん。なんだ、クラスの端にいて大人しくしているようなやつでもこんな一面があるのか。面白い。