生意気でごめん、先輩



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季節はもうすぐ秋だというが、まだまだ暑い。
窓際の席の特権として俺は少し窓を開けた。

夏休みが終わり、学校が始まった。
綴先輩とはたまにメッセージでやりとりをするが、まあ例の如く綴先輩はそっけないため、会えない寂しさと何も進展しない関係にモヤモヤする。

ーーー「俺、綴先輩のポーカーフェイスをちゃんとくずせたら告白することにします」

まあ、ふっかけたの俺だけど。もはや、触れることもしないと言い張ってしまったため簡単に会うことができない。

会ったら絶対俺から触れてしまいそう、というみっともない欲は中途半端と曖昧さに拍車をかけてしまう。
じゃあどうする。

頭を抱えていると、窓から入ってきた小さな虫の耳障りな音が聞こえてきた。

顔を上げて、その黒い虫を軽く手で払った。

俺の手のひらにはじかれて、また窓の外へと逃げていく虫。と、


「お、生田やりたいのか」

え、何が。

「よし、じゃあ文化祭の劇の脚本は生田で決定だな」


周りから拍手がおこり、俺は困惑しながら行き場のなくなった手をおずおずと下におろしていく。今、教卓に立っている担任、なんて言ったっけ。

文化祭の劇、脚本、俺に決定。

文化祭、劇、脚本、俺、脚本。

「脚本!?」

俺の声が教室に響き渡った。黒板に書かれはじめている自分の名前。

「なんだ生田」

「え、いや、脚本、無理っす」

「ええ?」

「おい一星、お前が情緒不安定なことするから先生がサザエさんのマスオみたいになってんじゃねえか」

前の席の友達がこちらを振り返り、そう言われる。声がひっくり返った担任が「ええ、じゃあどうすんの、また脚本決め直し?」と困惑している。

そんなこと言われても脚本なんてやったことねえし。

顰めっ面で『脚本 生田』と書かれている黒板を見つめる。

去年、どこかのクラスがやっていたのを思い出した。体育館には意外と人が集まって、みんな笑ったり感動したり、演者も観客も感情を爆発させている姿。
要はそのかなめである脚本を俺がやる。

所詮文化祭、やる気なんて皆無に等しかったんだけど。
でも、よく考えたら、綴先輩も見にきてくれるかもしれないってことだろ。

ーーー綴先輩のポーカーフェイス、崩せるかも。


「やりましょう!脚本!」

俺は腕をまくって政治家のポスターのような格好でそう言う。
再び教室から拍手がおこる。
俺の原動力は、今のところ綴先輩らしい。