彼女は何かを言いたげな瞳で俺を見上げていた。
両手にはスマホが握りしめられている。
「あの、できれば、連絡先、とか」
「…なんで」
「わたし、綴さんのおかげで志望校受かって」
「たかが一回勉強教えただけだ。それは君の」
「綴さんのおかげなんです!」
君自身の頑張りで。は、どうやら間違えたらしい。遮るように放たれた強めの声色。ああ、こういうの苦手だ、はやくここから去りたい。
「…そう、よかった。じゃあ俺行くね」
そう言って歩き出そうとすれば肩からかけているカバンを掴まれて身が少し後ろに行く。
イラッとして後ろを振り返れば顔を赤く染めた彼女が泣き出しそうな瞳で俺を見上げている。気持ちを推し量るなんてしない、早く離せ。
「…離せ」
「そんなにそっけなくするなら、なんで私に話しかけたんですか」
「は?」
「思わせぶりなことしておいて、あれ以来一度も目も合わないしっ、話しかけてくれないし」
「そもそも君が図書館に来てることなんて知らなかった」
「こっそり隣に座って勉強してた時もありました!」
嘘だろ。
「わたし、学校の友達にも超絶イケメンの彼氏できたって話しちゃったんですっ」
「…どういうこと」
「何も取り柄なくて、成績だって今の高校じゃドベだし、皆んなに勝てるところって考えた時に綴さんしか思いつかなかった!」
「どういう思考だよ」
「だから好きなんです!」
「その『だから』は何と繋がってんの」
ため息混じりに呆れてそう言う。
疲れた。勉強するより、こういうことの方が疲れる。
怒ることも力がいるから面倒くさいし、早く切り上げて終わらせよう。
俺は口を開いた。小さく、低い声で「あのさ」と。
しかし、それを上回る声がそこに響いた。
「あの、カップルの痴話喧嘩ならよそでやってもらえますか!」
夏らしく、荒々しい生意気な声だった。
びっくりしたのか、カバンを掴んでいた彼女の手がすっと離れた。俺はそれに安堵しながら声をかけてきたそいつに瞳を向けた。
「…一星」
『カップルの痴話喧嘩』という表現はどうもいただけないが、正直助かったと思った。
「つ、綴さんの友達ですか」
警戒心を隠さないまま彼女が一星にそう問うと、一星は顎を少し上げ挑発するように笑っている。
「だったら何だよ」
「すみません、あの、私」
「今さらいい子ぶったって遅せえから、全部聞いてたし」
「いい子ぶってなんて」
「綴先輩をそこら辺のアクセサリーと一緒にすんなよな、サイコパス朴念仁でも人間だぞ」
「…フォローする気あんのそれ」



