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ーーー『綴先輩に少しだけ似てる俳優が昨日みたドラマに出てました。開始2分くらいで死にましたけど』


「ふっ…」


机の上に広げていた参考書や問題集を閉じて、スマホの画面をつければ1つのメッセージが送られてきていた。端に置いていたスマホを持ち上げて自分の方に寄せる。
溢れた笑みを隠すように手のひらで口元を隠す。

一星は、あいかわらずだ。

関係が変わったように思えた。だがそれは抑えきれなくなった自分の衝動のせいだということも知っている。
相手の気持ちを推し量ることをせずに、ただ自分の欲のままに動いてしまったあの花火の夜。

後悔をしていないと言ったら、嘘になる。

ーーーー『へえ』

もっと言いたいことはあるけれど、一星が変わらず生意気な言葉を自分に吐きかけているのは嬉しさもあり、なんとも言えない焦燥のようなものが渦巻く。

自分の気持ちを上手く伝えられる気はしない、だが、相手には自分だけだとちゃんと言ってほしい。

ただのわがままだ。

勉強道具を黒いカバンに入れ込んで立ち上がる。
静かな図書館を出ると、蝉の音が耳に嫌というほど入ってくる。

「あの」

思わず足を止めて顔を顰めていると、同じく図書館から出てきた人から声をかけられる。暑さと蝉の音で足を止めてしまったため邪魔だったのだろうとすぐ横にずれて軽く頭を下げた。しかし、

「私のこと、覚えてませんか」

そう問われ、やっとその人の顔を見た。

「あの時はありがとうございました綴さん」

夏の荒々しさにはそぐわないか細い声で俺にそう言う。ああ、思い出した。

「…高校、受かった?」

「はい、受かりました」

照れくさそうに笑って頷いたその子は、去年、図書館で出会った女子であった。
隣町の偏差値の高い女子校を目指していたこともあって、一度だけ勉強を教えたことがある。

無事、合格をしたときいて安堵した。正直今のいままで気にしたことはなかったけれど。

今は高校1年生、一星の1個下。

一星より大人びて見えるのは、性別のせいか特有の高い声のせいか。勝手に比較対象にされてるなんて知ったらあいつ怒るだろうな、とそんなことを思えば、暑さや何を話せばいいかと詰まるような気持ちから少し解放される。


「綴さん、最近図書館来なかったからどうしちゃったんだろうって思ってたけど、よかった」

「…受験終わったのに図書館きてたの」

「受かったのはいいけど周りの子たち頭がいいから着いていくのに精一杯なんです」

「…へえ」

「でも一度勉強教わって、何回かここで綴さんを見かけて、私も頑張ろうって奮い立たせてました」


ーーー声かけてくれたら良かったのに。
まあ、こう言うのが正解なんだろうが、本心じゃないため口には出なかった。

一度、図書館の学習ルームで頭を抱えている彼女をみかけた時に珍しく自分から声をかけたのは覚えている。

夢と現実の狭間で苦しんでいるのが自分と重なったからだと思う。