メッセージを送って数時間が経った。返事はまだない、もはや既読もつかない。
簡易なスマホの音が鳴るたびに充電しているスマホに飛びつき画面を開く。
「くそが」
もれた毒。スマホにおとずれた求めていない通知を荒々しくスライドして視界から消す。
なんだよ、返せよ、俺から送ってやっているんだから。このまま夏休みが明けて何事もなく日常がはじまるのはそれもそれで嫌だから。
気まずいとか、感じたくないから、それだけ。
俺なりの気遣いなのに。
もう気にしたくない、気にしないでおこうとスマホの画面を地面に伏せて、お昼からやっているドラマを見始める。
案の定、内容なんて頭に入ってこない。
すると、玄関の方から音が聞こえてきた。どうやら外に出ていた兄貴が家に帰ってきたみたいであった。
「ただいまあ、うわお前また家に引きこもってテレビばっか見てんのかよ。ちょっとは出かけろよ」
「お前はもっと勉強しろや、受験生だろ」
「図書館で勉強してきたんだよ、バカにすんな。あ、お前の大好きな綴もいたぞ」
ソファに項垂れていた体が跳ね上がるようにして身を起こす。
『お前の大好きな』は聞き流す。
「まじ?」
「ああ、まあ偶然だったしちょっと挨拶したくらいで俺先に帰ってきたけど」
「まだいる?」
「知るかよ、あ、お前邪魔しに行こうとしてんだろ、やめとけよ。あいつ親のところの病院継ぐために必死にやってるらしいし」
冷蔵庫を開けて、ペットボトルのコーラを出した兄貴が何気ない口調でそう言った。
ぷしゅっと炭酸の音がそこに響く。
やっぱ、医者なんだ。すげえ。なおさらなんで俺なんだろう。何も取り柄がなくて、平凡で夢も目標もない、こんなやつ。
馬鹿みたいに綴先輩のメッセージを待っている俺。
キスしてきたくせに、俺のことは放っておいて夢に邁進ってか。ふざけんな。
俺は立ち上がってスマホを手に取る。
俺の様子をみていた兄貴がペットボトルから口を離し、軽く咳こみながら俺に声をかけた。
「お前まじで行くん?やめとけって。邪魔になるだけだから」
「うるせえ」
荒々しく家を出た。
まあ、兄貴の言うことは至極真っ当ではあるけれど、俺だけがこんなに綴先輩に振り回されているのが純粋にイラつくだけだ。
子供みたいに、感情のまま飛び出した。
暑い太陽の日差しに顔を歪ませながら画面をみる。
返事が返ってきていた。
ーーーー『へえ』
「みじけえよ!!」
数時間待って「へえ」って。朴念仁サイコパスめが!
確かに綴先輩にとってみれば本当にしようもないことだったのだろう。だけどさ、もっとこう、あるじゃん、だって俺たち、たぶん、ただの先輩後輩じゃない。
友達でもない。
ーーーー「…ほんと、生意気」
「だあ!いちいち思い出すな!」
道のど真ん中で俺は叫ぶ。人通りは少ないものの、虫かごを持った少年がこちらを見ていた。「みるな」と威嚇しておいた。お前は、こんな振り回されるような大人にはなるなよ少年。
会いたくない、早く会いたい、会ったらまずなんて話すべきだろう。
そんな葛藤と隠せない欲望が渦巻く中、俺は図書館に向かった。



