生意気でごめん、先輩




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ーー「綴先輩、おかしい、です」

ーー「何が」

ーー「よくないこと、しようとしてませんか」

ーー「…そう思うなら、振り払えば」



「っ!!」


ドンっと体が床を叩く。背中に浴びた鈍痛で俺は目を覚ました。

あの日から俺はずっとこうだ。起きればベッドから転げ落ちて天井を見上げている。

ーーーまじで笑えない。

「…はあ」

のそりと起き上がって俺はベッドに転がっているスマホの画面をつけた。
午前10時。夏休みということもあり遅めの起床だ。そして寝る前、1人で暗闇に沈む瞬間俺の脳裏にはずっとあのことが離れなくなっていた。

ほとんど眠れていない。鮮明な夢を見て、ベッドから落ちて目を覚ます。

高2の夏休み、俺はそんな毎日を送っている。

ベッドによじ登り、再度横になると再びスマホをみる。メッセージゼロ。


「…まじムカつく」


せめてメッセージくらいよこせよ。人にあんなことしておいて。
あの瞬間、夢だと片付けるのは簡単だった。その甘さに酔いしれるだけでよかったのだから。

だが、何事にも終わりというものがある。言葉に表せない気まずさと、名前のない関係のはじまり。

「…モヤモヤしてんのこっちだけかよ」

最後のメッセージは祭りの日で終わっていた。

ーーー『一星、家ついた?』

ーーー『着きました』

既読で終了。何なんだ。


「あー、もう」

立ち上がって頭を片手で乱しながら俺は意味もなく部屋をうろついた。
何か言ってやらないと気がすまない、だが、なんて言ったらいいのか分からない。

しばらく動きまわって、俺は荒々しくベッドに座る。
絶対に変化しない綴先輩とのメッセージの履歴を眺めていた。

そしてゆっくりと親指を動かしはじめた。


ーーーー『暑いですね』

違うな、と一気に消す。

ーーーー『元気ですか』

また既読無視されそう、消す。

ーーーー『なんであの時、キスしたんで』

「きいてどうすんだ」

俺は軽く地団駄を踏んだ。名前のない関係がはじまって、もやもやして、でも、名前をつけたくてもがいたところでどうなるんだろう。この気持ちに決着をつけることが、すなわち終わりに向かう火蓋を切るんじゃないんだろうか。

そんな不安が押し寄せてくる。

俺はため息をついた。
そしてまた画面に向きなおる。

じゃあもう、俺、生意気な後輩のままでいいや。