感動的なシーンなのに俳優の顔はまばたきの途中で止められており、変な顔になっている。
「このシーン、綴先輩だったらなんて言うんだろうって考えてたら笑えてきて」
「…は?」
「さっき、何笑ってんのかってきいたっしょ」
綴先輩はその黒い瞳をテレビの画面に向けた。
「綴先輩って思った以上に無愛想っすよね」
俺はそう吐き捨てて綴先輩に背中を向けてカップラーメンを取り出す。小腹が空いてきてしまった。
ポットにお湯を入れてスイッチをいれながら俺はまだ後ろにいるだろう綴先輩に声をかけた。
「やっぱモテるから、変に人が寄ってこないようにそうやって壁作ってる感じっすか」
先ほどから失礼極まりないことをいっていることは承知だ。
この時俺に湧いてきた感情といえば、どこまで突っかかればこの人のポーカーフェイスが崩れるのだろうというただの好奇心である。
まあ、綴先輩から返事がきこえてくることもなく俺は1人で喋り続けた。
「いいですよね、愛想ふりまかなくたって勝手に好かれるんすから人生勝ち組って感じ」
と、不意に聞こえてきたのはテレビの音。俺はリビングの方に顔を覗かせる。
綴先輩が立ったままリモコンをテレビに向けていた。
止めていたドラマが再生されている。
「何やってるんですか…」
「言われたい放題だからどんなシーンかみてやろうと思って」
少し巻き戻しをしてまた再生を始めた綴先輩。おお、なんか感情を出し始めている気がする。作戦成功だ。と少しばかり心が弾んだが、綴先輩と距離を縮めたところでどうなるわけでもないということに気づき俺は「そうっすか」と空返事をしてポットのお湯をカップラーメンに注いだ。
テレビから女優の泣き叫ぶような声が聞こえる。
ーーーー『私はあなたがどんな人だろうとかまわない、好きって気持ちに正直にいたいの』
ーーー『君が泣いたところ初めてみた。そんなに僕のことをおもってくれていたなんて』
ーーー『ずっとだよ、離れてる間もずっとずっと愛してる』
ーーー『俺も』
くさいセリフ。ありきたりで、だけど想いが言葉にちゃんど宿っている気がする。
ストーリーはSFアクションものではあるが、そこに垣間見える愛の刹那がいいのだ。
俺はカップラーメンを手に持ち、リビングへと戻っていく。
綴先輩はあいも変わらず無表情であった。
俺はテーブルにラーメンを置いて綴先輩の手にあるリモコンを奪い取るとドラマを止めた。
そして綴先輩の正面に立つ。
「私はあなたがどんな人だろうとかまわない、好きって気持ちに正直にいたいの」
「…は?」
「答えてみてくださいよ先輩。告白なんてされ慣れてるっしょ」
綴先輩はその黒い瞳で俺を真っ直ぐ見つめてくる。さあ、なんて返すんだこの朴念仁は。
「その言葉にいたった背景が分からないから何も言えない」
「ぐわあ、つまんね」
俺はソファに項垂れる。カップラーメンが出来上がるまでの残り数分をこの面白みもくそもない先輩で埋めてやろうと思った。
ソファの後ろに立っている先輩を俺は背もたれに腕を置いて見上げる。
冷たい瞳が俺を見下ろしていた。
「ずっとだよ、離れてる間もずっとずっと愛してる」
「…別に俺はどうでもいい」
「うわあ、そうやって今までも何人もの女を振ってきたんですね」
「…」
「図星だ」



