嫌味の一つでも言ってやろうと口を開いたが、同時に花火の強い音が響いて、夜空に大きな花が咲いた。
次々と色とりどりな花火が打ち上がっている。
ちらりと横を見れば綴先輩の綺麗な横顔が花火の色によってかわるがわる染まっていた。
表情もこれくらいの頻度で変わればいいのに。
今どんな気持ちで花火を見ているんだろうか。
そんなことを思っていると、その瞳が俺の方を向く。
そして綴先輩の口が小さく動いたが花火の音で何て言っているか分からず「え?」と綴先輩に少し近づく。
綴先輩の口元が俺に寄せられた。
「…今日、誘ってくれてありがとな、意外と楽しい」
聞こえてきたそれ。少しだけ離れたけれどまだ近い距離にある綴先輩の顔をみる。次はいちご飴じゃなくて、俺がその瞳に映っていた。
言葉の意味を理解したあと込み上げる嬉しさを隠すように「はあ?」と顔を歪める。
「よくそんな照れくさいこと言えますねっ、酔っ払ってるんすか!」
「ーーーだよ」
「え?なんて?」
「本心」
「っ」
言葉が詰まった。連続して打ち上がった花火のあと、少しの隙間をもたらす。
「一星」
「…なんですか」
少しの熱を帯びた声。気のせいだ、気のせい。だって、俺がどんな気持ちかなんて綴先輩は知らない。
俺たちにそういうのはあってはならない。
自制は、意外と脆い。
綴先輩の手のひらが俺の頬に触れた。
また、距離が近づく。あ、これは、
「綴先輩、おかしい、です」
「何が」
「よくないこと、しようとしてませんか」
「…そう思うなら、振り払えば」
できないこと、分かっているくせに。ほんとムカつく、この人。
「ふざけんな…っ」
もれた生意気な言葉の続きは、いとも簡単にのみこまれた。
触れた唇。
それと同時にまた花火が打ち上がる。おいおい、そういう演出いらないから、より俺の気持ちに拍車がかかるからやめてほしい。ああ分かった、これ都合のいい夢だ。メロドラマみたいな、夢。
手に持っていた残り2粒のいちご飴が串ごと力なく地面に落ちていく。ああ、もったいない。
そう思うのに俺はそのあいた手で、綴先輩の袖をぎゅっと掴む。
ーーーもういいや、夢ってことで。
一度離れた唇。綴先輩の瞳が至近距離で俺をみる。
のみこまれてしまいそうだと思った。俺、今綴先輩とキスしたんだ。
そんでたぶん、
「…っ」
もう一回する。
下から掬いとるようにまた唇を重ねた綴先輩。
毒のようにぐるぐると甘い熱が体中をまわっている。
綴先輩の手がゆっくりと自分の後頭部にまわった。
夢だから別に気にする必要ないかもしれないけど、この人、俺のこと好きだったりすんのかな。
恋愛に発展することなんて、皆無に等しいと思っていた相手だった。というか、ダメだと思っていた。
だって俺、男だし。
「……誰とでもこういうことできるんですか」
一度離れて角度を変えようとした先輩の動きが止まる。
冷たくも感じるその瞳が俺を射抜いて離さない。ゆっくりとまばたきをしてその瞳は怒りを帯びた。
「…ほんと、生意気」
そう言ってまた唇が塞がれた。



