生意気でごめん、先輩





ーーーミッションはクリアである。
俺は両手に数学のテスト用紙を握りしめてスキップを踏む。
そして大きめに書かれた赤い数字を視界に入れて胸元に寄せた。

そう俺は、目標を達成した。まあ『ごほうび』ぎりぎりの90点ジャストであるが。高校入って初めての高得点だ。

これが渡されてすぐ思ったのは、「はやく綴先輩に見せたい」であった。何てほめてくれるだろう。それに、夏休みどこ行こう。

3年生の教室へ向かうための階段。勿論あがったことはない。俺は階段を見上げる。
お昼休み、教室に綴先輩がいるとは限らない。

学校に来てまで顔を拝みたくないクソ兄貴がいる可能性だってある。ちょっとのぞいて綴先輩がいなかったら静かに戻ってこよう。そう決めて、階段を登り始めた。

緊張と早く言いたい高鳴りをそのままに俺は顔なんてほとんど知らない何人もの3年生とすれ違う空間を歩く。

不思議だ、たった1年しか変わらないのになぜか大人に見える。兄貴にはそういうの全く感じないけど。

俺は若干肩をあげながら、綴先輩がいる教室の中をちらりとのぞく。

そしてすぐ戸の影に身を隠した。正直一瞬すぎて何も見えなかった。何やら女子の塊がキャッキャしているのは見えたけど。

おそるおそるもう一度覗くと、どうやら綴先輩はいないようであった。

そして女子の塊の中に兄貴がいるのを見つける。何でお前そこにいるんだよ。

と、げんなりした顔をしていれば運悪く、兄貴はこちらに気づいた。

「おっ!一星じゃん!」

声がでけえ。そしてなんで見つけるんだクソ兄貴!
こちらに向かってくる兄貴を睨みつけながら俺は舌打ちをもらした。
好奇の瞳か向けられている中一切に気にする様子もない兄貴が俺の前に立つ。

そして兄貴が言おうとしていた言葉に被せるように、俺がその言葉を放った。

「なんでいんだよ」

「それお前が言う?なんでって自分の教室にいて何がいけないんだ」

「そういう意味じゃねえよ」

綴先輩と話したいのになんで昼休みの貴重な時間を兄貴と話さないといけないんだという意味だ。「なんでいんだよ」はそういう嫌味が存分に込められている。

と、

「あ、もしかしてお前も綴に用?」

ぎくっと肩をあげる。背中にまわしたテスト用紙を握りしめる。

「さっき女子たちとも話してたんだよ、昼休み他クラスの女子に呼び出されてるからおそらく告白だろうって」

「告白…?」

「まあ、いつものことだけどな。また女泣かせてもクールに帰ってくんだろうって女子たちと盛り上がってた。ちなみに俺は今度こそ付き合うに焼きそばパン賭けた」

綴先輩を賭け事に使ってんじゃねえよ。それに先ほどの「お前も綴に用?」もめっちゃ腹立つ。一緒にすんな。

「俺は別に」

「最近仲良いんだろ」

「は?」

「綴がよくお前のこと話してくるから」

え。綴先輩、俺のこと話してんの、それは嬉しいかも。どんなこと話しているかを問い詰めたい気持ちに駆られたがそんなことをするのは少し卑怯だと感じた。せめて本人にききたい。

「…どこに行ったとか知らねえの」

「さあ。告白って言ったら校舎裏だろうけど」

「ふうん、あっそ」

俺は適当な返事をしてくるりと踵を返した。
背に「うわ、生田弟だ!」と野次馬たちの声が聞こえてきたが無視。
俺がここにきた理由は、綴先輩ただ1つだ。

それに綴先輩がいくらイケメンだからって告白をされに教室を出た空間で本人はいないのに勝手に賭けるとは、それでも来年高校を卒業する大人のやることか。けっ。

少々荒い足音で俺は来た道を戻り、自分の教室の方へは行かず校舎裏の方へと足をすすめた。