気持ちがおかしいって、なに。
自問自答が頭をよぎる。この気持ちに答えは出ないことは分かっていた。
「できた」
俺はシャーペンを机に置き、綴先輩に問題集を寄せる。綴先輩は俺のペンケースから赤ペンを取り出して視線を落とした。
しばらくそれを見つめて、
「…正解」
嬉しくなさそうに小さな丸をつける。やった、と拳を握る。やっぱり俺はこうでもしないと自分を奮い立たせることができないやっかいな性格なんだ。
「綴先輩は、俺のことをどう思ってますか」
「……」
「正解したんだから答えてくださいよ」
「そもそもそんなバカげたゲーム、許可してない」
「なんだよもう、やる気なくしそう」
肩を落として額を机につける。綴先輩は俺がやる気をなくそうが勉強をしなくなろうがメリットもデメリットもないわけで、いい加減怒ってしまうだろうかと俺は内心そわそわしていた。
見放されそうだ、と。
「…犬みたいだな、と思う」
「は?」
俺は聞き間違いか?と顔を顰めながら綴先輩をみる。そのポーカーフェイスは崩れることはなく、俺を見つめていた。今この人『犬』って言った?
「…よくあるだろ、犬が飼い主の目の前でおもちゃをわざと転がして飼い主が取ろうとするとまた掴んで、また落として、それを繰り返して遊んでる」
何言ってんだこの人。つまり、俺がそのおもちゃで遊ぶ犬だとそう言っているのか。そうなると
「綴先輩は、俺の飼い主ってこと?」
「…なんでそうなる」
「いやその理屈で言うと俺は綴先輩にしかそういう態度をしないから綴先輩が飼い主になるなって」
「まず犬って思われてることを怒れよ」
「はっ!確かに!最低だ!綴先輩!」
「…変なやつ」
口元を手の甲で隠して小さく笑みをこぼした綴先輩。おっ、レア綴先輩だ。綴先輩は俺のにやけ顔に気づいたのか表情をすんっと元に戻した。
そして問題集を俺の方に戻して続きの問題を人差し指で示す。
「続き、はやくやって」
「正解したら質問」
「無理、そんなことしてたら日が暮れるから」
「ちぇっ」と唇を尖らせて俺を再び問題に向き直る。
数学の方に脳みそを費やすまえに、俺はふと考えた。『犬』か。つまり、俺が生意気なこと言って綴先輩を試しては笑って、近づいてきたらまた生意気言っての繰り返しのことを言っているのだろうか。
まあ、納得はできないけど、理解はできる。
シャーペンを動かし始める。また静かな空間。だが、しばらくして口を開いたのは綴先輩の方だった。


