生意気でごめん、先輩



「頑張ろうな、一星」

俺にそう言ったがその姿は綴先輩ではない。だけど声は紛れもなく綴先輩で思わず笑ってしまう。
それとと同時に「start!」とネイティブな英語がそこに響き渡った。

あっという間にゾンビたちは俺たちの至近距離まで迫ってくる。

俺は「うわあ!!来るな!」とみっともない叫びを響かせながら銃でゾンビを倒していく。
しかし、そもそも命中率が悪くやつらは蘇っては俺を食おうとしてきていた。

「綴先輩!綴先輩!!綴先輩!!!」

「うるさい、俺も無理」

無理そうにきこえないあたりがさすがだが、今回は助けに入ってこないので相当危機的状況なのだろう。

そんな中、酷いことにチェーンに縛られていた巨大ゾンビが解放されてしまう。

俺はというとタイミング悪く銃の弾が切れた。もう終わりである。

「…綴先輩、今までありがとうございました」

迫る狂う巨大ゾンビを前に俺はそう呟いた。
その瞬間、綴先輩のキャラが俺の前に立った。その屈強な背中が頼もしい。

絶対かないやしないのに凛とした姿で銃を構える。

だが綴先輩はぎりぎりまで弾を打たない。
すぐそこまで巨大ゾンビが迫ったところで俺は思わず目をつぶった。

それと同時にパンっと音が鳴る。
何かが地面に倒れる音が響き、しばらくして『ゲームクリア!』という声が聞こえてくる。え、クリア?

目を恐る恐る開ければ、巨大ゾンビは地面に倒れており坊主の屈強な外国人が俺の方をみて立っている。うわ、改めて見ると豹柄タンクトップだせえ。


「…怖いの苦手なら、やらなくてよかっただろ」

ため息混じりにそう言ったそいつ。俺は我に返って目元を覆っているそれを外した。

少し眩しくて思わず目を細める。
俺の目の前には思いの外近い距離に綴先輩がいた。
安心してほっと息をはく。

「…一星、役に立たなかった」

「なっ」

言い返そうとしたが綴先輩が俺の方に手を伸ばしたので、言葉が止まった。
その指先が俺の乱れている髪に触れる。

「まあ、楽しかったよ」

一般的に見れば全然楽しそうな顔には見えないが、いつもよりはほんの少しだけ口角があがっているように見える。

そして俺の顔にへばりついていた髪の毛を指先で優しくはらった先輩。なぜか心臓がきゅっと痛くなった。
なんだこれ、どういう感情だ。

ーーーまさか。


「吊り橋、効果…?」


「は?」