「VRゲームみたいな感じなんすね」
「一星やったことないの」
「ないですね」
「…なんでこれ選んだんだか」
呆れたようにため息をもらした綴先輩。そりゃああれだろ、綴先輩の驚く顔とか見てみたいし。
俺が選んだそれは、ホラーゲームで迫り来るゾンビたちを次々と倒してレベルアップしていくものであった。
ペアでやる場合は協力をしないといけない。
お金をいれて、俺たちはおもちゃのような備え付けの銃を手に持ち、専用の自分の視界がゲームの世界に染まる機械で目元を覆う。しまった、これだと綴先輩の顔がみえない。
「綴先輩、びびって逃げないでくださいね」
「ああ」
表情が見えない分、その声色はよく分からなくて本当にいなくならないか心配が増す。この人途中でしれっと帰りそう。ゾンビよりこわい。
「あ、綴先輩、そこの銃の弾拾ってください」
「分かった」
ゲームが始まり、しばらく綴先輩も俺も冷静にゲームを進めていた。
廃墟ビルを俺たちはゆっくりと歩いていく。ゾンビはいつ出てくるか分からない。
真っ暗闇からいつ飛び出てくるか分からないスリル。綴先輩は楽しんでいるのだろうか。
と、
「…来た」
綴先輩のそんな声。「え!?」と思いの外自分の口から大きな声がでる。え、どこ、まじどこゾンビ。
キョロキョロと軽くパニック状態で辺りを見渡すと、綴先輩のキャラであるいかつい坊主のアメリカ人が幾分か先のゾンビに向かって銃を放つ。
そのすぐ横からすごい勢いでゾンビが迫り来る。
「待て待て待て!心の準備が!」
「騒がしいな」
至って冷静な綴先輩が俺に襲ってきたゾンビに寸前のところで銃を放つ。見事に頭に命中して倒れ込んだゾンビ。ぱっと横を見ると綴先輩には似ても似つかないいかつめアメリカ人がこちらを見ている。
「先に進むぞ一星」
ノリノリじゃねえか。
「今のはちょっと慣れてなかったから、次は1人でも倒せるし」
「へえ」
綴先輩が少し弾んだ声を出す。ああ、今どんな顔をしているんだろう。見たかったなあ。
心の色とは反比例していくように視界はどんどん赤黒くなっていく。レベルが上がっていくごとにおどろおどろしさも増していくようである。
そして物陰から飛び出てくるゾンビの顔つきもどんどんエグい方向にいっている。
的確に狙うというより、無我夢中で銃を乱射しているため俺の目の前のゾンビはいなくならない。
「おおお、やばい死ぬ死ぬっ、助けて綴先輩」
「ちゃんと頭狙えって」
至って冷静な綴先輩がそう言って俺のすぐ目の前に来たゾンビの頭を余裕そうに撃ち抜く。
そうこうしているうちに最終ステージまできていた。ほとんど綴先輩のおかげである。この人本当に初めてなのだろうか。
「多すぎじゃね、ゾンビ」
「…最終だからな」
最終ステージは俺たちの周りをゾンビが囲んでおり、その先にはラスボスのような巨大なゾンビが待ち構えている。巨大なゾンビは両手を鎖でつながれており、一定の時間が過ぎれば襲ってくるのだろう。
俺は銃を握りしめてごくりと唾を飲み込んだ。そして隣をみる。イカつめの坊主の外国人も俺を見ていた。
大きめの鍛えられた体に、豹柄のぴっちりとしたタンクトップを着ている。今更ながら綴先輩はなんでそのキャラにしたんだろう。



