まあ、綴先輩の教え方は神並みに分かりやすかった。
公式にはめ込んで導き出していくことの達成感を味わいながらも結局はそれも綴先輩に促されるまま出された正解なわけで、到底今のままでは90点など難しい。
「期末まであと3ヶ月でなんとかなりますかね」
「まあ、危機感あるならなんとか。明日は無理だから明後日またやろう」
「え、また勉強見てくれるんすか」
ファミレスをでて、薄暗くなった道を並んでゆっくり歩く。綴先輩の何気ない言葉に俺は驚いて横を見た。
綴先輩のことだから、これ以上は自分で頑張れと突き放されるかと思った。
夏に近づいている風が頬を掠めた。隣の綴先輩も少し目を細める。黒い髪の毛が風によってゆらゆらと揺れていた。
なんだかこのまま今日が終わるのも嫌だなと思った。もう少し綴先輩と遊びたい。俺は芽生えた素直な気持ちにむず痒くなりながらも幾分が先の光に目をやる。
綴先輩が苦手そうな騒がしい音が聞こえてきた。
「綴先輩、ゲーセン行ったことあります?」
「ゲーセン?」
「ゲームセンターっす」
「ない」
ですよね。俺はにひりと笑って綴先輩の腕を掴んだ。
そして歩みを早める。
「なに」
低い、困惑したような声色が俺の少し後ろからきこえる。
「勉強がんばったんですから、ちょっとくらい遊んだっていいでしょ」
「何言ってんだよ、帰るよ」
綴先輩が足を止めて、くいっと身を後ろにひっぱった。俺は綴先輩の腕を離さないまま後ろを振り返る。
ちくしょう、やっぱり一筋縄ではいかない。
「俺、綴先輩ともう少し一緒にいたいです」
直球勝負でそういうと、反抗していた力が少し弱まる。
「それに、勉強ばっかして人と関わらなくて、朴念仁な綴先輩はもう少し高校生活楽しんだ方がいいですよ」
「…楽しむために高校に行ってるわけじゃない」
伏し目がちにそう言った綴先輩。まあ、そうだろうなとは思う。
「放課後の寄り道なんて、高校生の醍醐味なんだからつべこべ言わず行きますよ!」
ぐいっと綴先輩を引っ張り俺はゲームセンターの中に入った。
耳に騒がしい音が一気に入ってくる。綴先輩は当然慣れておらず俺の知るなかで1番顰めっ面になった。
「…うるさ」
「おっ、あれやりましょう!」
綴先輩の言葉は聞こえないふりをして俺は綴先輩を引っ張りながら突き進んでいく。
クレーンゲームやメダルゲームの他にもペアで楽しめるゲームなどが並んでおり、俺はその中でもひときわ黒とおどろおどろしい赤が目立つゲームを選んだ。
ぺらぺらとした入口の前で俺は綴先輩の方に体を向け、そのゲームを指差した。
「これ、やりましょう」
「…嫌だ」
「なんすか、怖いんすか。へえ、そっか、綴先輩って意外とびひりなんだ」
綴先輩が少しむっとする。そして俺の体を押し除けて入口をくぐった。そうこなくては。
綴先輩は意外と挑発をすればのってきてくれる節がある。
ーーーー『言われたい放題だからどんなシーンかみてやろうと思って』
初めて家に来たあの時もそうだった。



