生意気でごめん、先輩



「俺がそんなこと頼むように見えます?」

「見える」

「ショック…」

テーブルに項垂れていると、タイミング悪くハンバーグとステーキセット、それからオムライスが運ばれてきた。
「おまたせしました」と女の弾む声が頭上で聞こえる。俺は下を向きながら運ばれてくるそれを見つめる。悲しい気持ちと目の前に広がった美味しそうな光景で俺の感情はよく分からない情緒不安定であるが、食欲が幾分か勝り腹が鳴る。

「いただきますっ」

俺はフォークとナイフを取り出して大きめにハンバーグを切るとそのまま口に運んだ。はあ、美味い。
咀嚼して飲み込んだら、また綴先輩が俺に向かって放った言葉が脳裏をよぎる。『変なこと頼んできそう』か。

ちらりと正面を見るとオムライスをスプーンで少量掬い、口の中に入れた綴先輩。その姿も綺麗に見えるのだろう周りの視線が綴先輩に注がれている。

横のテーブルの女子高生が、『オムライス食べてるよ、やば』と小声で言っていた。そりゃあ食うだろ、人間だし。まあ俺も最初はAIか何かかと思ったけど。

大口をあけてハンバーグとステーキを交互に食べながら俺は上品にオムライスを食べ続ける綴先輩を見つめた。すると、ふと綴先輩と目が合う。

「…なんだよ」

「周りの視線には気づかないのに、俺が見てたことには気づくんですね」

挑発するようにそう言えば、綴先輩は眉を顰めた。

「一星と同じテーブルに座ってるんだから当然だろ、何が言いたんだよ」

「いや、ただの挑発」

「…生意気」

初めて綴先輩の口からその言葉が出た。やはり先ほど言おうとしていたのはそういうことなのか。

「綴先輩にだけですよ」

「…なんで」

「挑発すれば、そのポーカーフェイスが崩れるから」

「は?」

「ほら、眉間にシワよった」

綴先輩は指摘されて気づいたのか、自らの眉間を軽く触る。

「…一星、暇なの」

「最近は綴先輩のこと考えてるんで暇じゃないっす」

「食べ終わったら勉強するからな」

俺の言葉は完全スルーして綴先輩は少し大きめにオムライスを掬い口の中に入れる。
困惑しているのだろう、俺と目を合わせなくなってしまった。俺が発した言葉の意図を今脳内で必死に探っているのだろうか。

「綴先輩」

「なに」

「ごほうびでしてもらうこと、俺、考えときますね」

「そもそも数学点数とれないだろ、やるとしても90点以上とらないとごほうびなんてやらない」

うわ、そうきたか。90点なんて小学生の低学年以来とってないかもしれない。やばいって、だって現時点で2点だし。せめて、せめて、

「50点」

「却下」

「じ、じゃあ70て」

「却下」

遮られた提案。俺は肩を落としながらそれでも食べる手を止めない。正直、今日だってちゃんと勉強する気なんてさらさらなかった。
ーーーしかし、軽々しく放った『ごほうび』のために俺は死ぬ気で数学とにらめっこしないといけない日がきたのかもしれない。