生意気でごめん、先輩



放課後のホームルームが終わったらダッシュで校門に向かった。だって、俺がいなかったら綴先輩はすぐさま帰ってしまうだろう。
ーーー「…いなかったらもう知らないからな、一星」
あの言い方はそういうことである。

校門を少し出て、俺は校舎側に体を向け、仁王立ちで腕を組んだ。

さあ、こい、綴先輩。どんな顔でくるんだろうか、やっぱり無表情だろうか。

何人かが俺を怪訝な顔で見ていき、学校を出ていくがそんなことはどうでもいい。俺はただあの校舎から綴先輩が出てくるのを待つことだけに集中している。

そして俺がこの体勢でまつこと約10分ほどで、ひときわ目立つ綺麗な男が校舎から出てきてゆっくりとこちらの方に歩いてきた。
周りを歩く女どもがキャッキャ言っているのを聞こえているのか聞こえていないのか、まあ慣れているんだろう。ただまっすぐ前を見て歩いている。

そして俺を視界に入れてやや眉を顰めた。


「…そんなに門の中央に立つなよ、邪魔だろ」


来て早々呆れた声色で綴先輩は俺にそう言った。


「ここにいた方が分かりやすいと思って」

「あっそう」

興味なさげに先に歩き始めた綴先輩を追いかけるように横に並ぶ。

「どこ行くんすか」

「図書館」

「図書館?なんで?」

「数学、教える」

「ありがたいっすけど」

図書館かあ。と肩を落とす。静かすぎて綴先輩との距離を縮められない気がする。

「勉強を教えてもらう場所としては適さないですよね」

「なんで」

「喋れないし」

綴先輩もそこは納得したのか「ああ」と小さく声をもらした。しばらく下を向いて何やら考え込んだ綴先輩。

「俺の家行きますか」と言おうとしたが、兄貴がいるのが嫌だった。またどうせ綴先輩の前で喧嘩して終わる。どうせなら2人きりという空間で勉強も綴先輩のこともきけるような楽しい場所がいい。

「あ、ファミレスどうですか」

「ファミレス…」

綴先輩は俺の方を向いて難しげな顔をした。
まさか。

「行ったことない、とかですか」

「…」

「まじか」

沈黙はイコール肯定だ。
兄貴からうっすらとはきいていた。綴先輩の家は豪邸らしく中にはお手伝いさんがいたりするとか。家に帰って高級なメシが準備されていたらそりゃあ外で食べる必要もない。女子たちが綴先輩の外見や雰囲気を見ての舞い上がってつくりあげた妄想の噂だろうと思っていたがどうやら本当っぽい。

「放課後にファミレスでごはん食べるってのもなかなか楽しいっすよ」

「ごはんじゃなくて、勉強だろう」

「まあ、そうっすけど。嫌ですか」