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人間、綺麗なものをみると自然と目で追ってしまうのは仕方のないことだと思う。
それが、表情筋が滅多に動かないポーカーフェイス野郎だとしても。
「あ、こいつ同じクラスの綴」
ええ知ってますとも。俺は学校の有名人とまさか自分の家で遭遇するとは思っておらずソファーに横になりスナック菓子を貪ったまま亜然とそいつを見上げる。
「これ、俺の弟の一星、高2だし同じ学校だから会うことあるかもよ」
『これ』と指をさされたのは紛れもなく俺で、俺は体を起こして何の前触れもなくそいつを連れてきた兄貴を睨みつけた。
「別に紹介しなくていいだろ、さっさと部屋行けよ」
「こちら、反抗期中ですので触るな危険ということで」
「どつきまわすぞくそ兄貴」
人を展示物みたいに。と舌打ちをもらし俺は兄貴の横をみる。ほお、笑っていないだと。
表情を変えないそいつを兄貴はなんてことないかのように、肩を組んで「じゃ、行こう」と部屋の方へ歩きはじめた。
俺はその2つの背中を睨みつけていると、兄貴がふと振り返る。
「一星」
「んだよ」
「お茶とお菓子、適当によろしく」
「はあ?」
俺が顔を歪めると兄貴の横で俺の方を振り返った綴先輩と目が合った。うっわ、なんか気まず。芸能人が家に来たみたいな不思議な感じだ。
「分かった、目障りだからはよ行け」
毒を吐いて俺は立ち上がった。兄貴は「な、凄まじい反抗期だろ」とケラケラ笑いながら綴先輩に絡んでいる。本物の反抗期は頼まれても言うことなんてきかねえよバーカ。
綴先輩以外の友達であればおそらく断っていただろうがなんとなく気になったのである。
1学年下の俺でさえよく耳にする『綴先輩』のこと。
クラスの女子がよく騒いでいるのは知っていた。
そしてそいつはポーカーフェイスで笑わなくて、あまり人を寄せつけないという噂も。
単純にどんなやつかが気になったということだ。
俺は適当に冷蔵庫からペットボトルの麦茶を2本とりだし、買いだめしていたお菓子を適当に両手に抱える。
いざ、出陣。
ドアを荒々しく開ける。
「お前ノックくらいしろよなあ」
持って来てやったのになんだその言い草は。
兄貴は呆れた顔でこちらを見ていたが、相変わらず綴先輩は無言、無表情。
少し小さめのテーブルには参考書や教科書が広げられているためおそらく勉強をするのだろう。
兄貴が広げた教科書や参考書の多さ、それから学力的に考えて対等な勉強ではなく、たぶんだが綴先輩から勉強を教えてもらうためにここに呼んだのだろうか。じゃないとこの状況に理由がつかない。
だって、絶対友達とかじゃないだろうし。
俺は改めて綴先輩の方をみる。
綴先輩は何も気にしていないのか静かに一冊の問題集を取り出して広げていた。
そのなんてことない仕草までもなんというか綺麗、というか、そうつまりだな。
「AIみてえ」
「なんか難しげな顔してんなと思ったらものすげえアホみたいなこと言い出したな。俺の弟がごめんな綴」
「別に」
「あ、喋った」
「もうお前失礼なことしか言わないならはやく出ていけよ一星」
喋ったと思ったら不機嫌な女優みたいな返しがきた。綴先輩は謎だ。
兄貴が「ほら早く行って」とイラついたように俺の足を軽く蹴った。



