わたしは、真新しい制服のジャケットに腕を通す。身頃をぴんと張った。
 薄紫色のリボンが曲がっていないか、鏡でチェックする。
「よしっ」
 わたしの声は、桜色だ。
 紺のスクールバッグを肩にかけて、玄関の扉を開いた。
「いってきます!」

 桜の花が満開だった。
 ひらひらと散る花びらの向こうに見えた校名は「藤瑶館高等学校」。
 わたしは、今日からこの学校の普通科の生徒になる。

 澪と翔太郎も、無事、廉城高校に合格した。きっと今頃、二人で喧嘩しながら入学式を待っているだろう。
 スマートフォンが振動する。澪からのメッセージだ。
《桜がきれいだよ! そっちは?》
 桜の写真が送られてきた。
《こっちもきれいだよ》
 わたしも、桜を写真に撮って送り返す。
《入学式終わったら、駅前集合だからね!》
《了解!》
 スマートフォンを鞄に戻す。校舎から、わずかにバイオリンの音が聞こえた。色は、さわやかなミントグリーン。
 この学校はたくさんの色であふれているだろう。

 わたしは、自分の選んだ道を正解にする。
 もう、わたしはわたしを「出来損ない」なんて言わない。
 約束したから。
 わたしは、学校の敷地に足を踏み入れる。
 真っ青な空が、祝福してくれているような、春の日だった。

〈了〉