悠誠くんが、死んでいる。
 それも、二十三年も前に。
 わたしは小さく二歩進んで、悠誠くんの手首を掴む。ひんやりとしているが、確かに掴める。
「意味が……わからない……。だって……こうして、触れられる……」
「僕も自分で自分がどういう状況なのか、わからないままこれだけの年月が経ってしまったんだ」
 うっすらと聞こえる打ち上げ花火の音だけが聞こえる。
「生きている人に触れられるのは、二十三年ぶりだ。窓ガラスに映らないことはわかっていたけれど、まさか、人が僕に触れることができるとは思わなかった」
 悠誠くんは、目を伏せる。長いまつ毛が揺れる。
「ごめんね、言えなくて」
 わたしは、陸に上がった魚のように口を動かすが、声にならない。荒い吐息ばかりが、わずかに聞こえる打ち上げ花火の音に混ざって消える。
 わたしは、はだしのまま走り出した。
 涙があふれる。音楽室の扉を勢いよく開けて、階段を駆け下りる。
 渡り廊下横の窓にたどり着いたときには、息が切れて、膝に手を置く。
 悠誠くんは、追いかけてこない。
 ドーンと、打ち上げ花火の音だけが聞こえる。