悠誠くんと連絡先を交換することを毎回忘れてしまう。連絡先があれば、花火の予約を取り付けられるのに、と思って、ため息が出る。
 なかなか家を抜け出すタイミングがつかめず、明日はもう花火大会だ。
 学校の教室でも、花火大会の話題で持ちきりだ。皆、誘い合っていくらしい。
 教壇近くで翔太郎が男子たちと話している。漏れ聞こえる内容から、男どうしで遊ぼうということになっているらしい。
 翔太郎は、何事もないかのように接してくれた。気軽にあいさつして、わたしのちょっとしたドジを笑ってくれた。心からありがたかった。わたしも変わらず翔太郎と友達付き合いをしていこうと思っている。
 わたしは、窓際の席から薄雲のかかった青い空を見上げる。ニュースでは梅雨入りが近いと報じられているが、ここ数日はきれいに晴れていた。
 事前の約束もないのに、悠誠くんと出かけるのは無理だろう。学校から花火は見られるのだろうか。
 花火の打ち上げは夜の七時半からだ。悠誠くんは、何時から学校にいるのだろうか。「アヴェ・マリア」を弾いてもらった日は、夜の九時半頃にはいた。ダメ元で、七時半に行ってみるしかない。
 お父さんとお母さんには、友達と花火大会に行くと言ってある。間違いではない。最近は、成績が良くなってきているから、すぐに許可は降りた。お兄ちゃんも友達と見にいくようだ。
 悠誠くんといるところを誰かに見られたら恥ずかしいな。
 わたしは、頬を両手で覆った。