月が窓の外に輝く。残響を聴きながら、わたしはころりとこぼした。
「優しい青の音だ」
「青の音?」
悠誠くんは聞き逃さなかった。こんな夜中にバイオリンを弾いている風変わりな人には、話しても驚かれないかもしれない。
「わたし、音に色がついて見えるの。共感覚って言うんだって」
中二病だと思われそうで、普段は他人に話すことはない。
「学校の放送は基本がメタリックで、話している人によってオレンジや緑とか、いろんな色が添えられる。話している人の声にはその人の性格や心情が顕れる。恋バナをする友達はピンクやクリームイエローの優しい色。街で見かける赤ちゃんに話しかけるお母さんは、包み込むような薄いオレンジ色。……喧嘩をしている人たちは、刃物のような鈍い銀色」
わたしは思わず唇を噛む。水銀のような、鉛のような、鈍い銀色で満たされたあの家で、わたしを窒息しそうだった。
黒や、絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたような茶色も、わたしに投げつけられる。この汚い色が、お前の存在なんだ。そう言われている。何の価値もない、誰も使わない汚い色になった責任の在り処を、お父さんとお母さんは押し付けあっている。
わたしは、下水のように汚い色だ。鈍い銀で傷つけられ、ごみの中に捨てられる。
わたしが両親の喧嘩を聞くときに思い浮かぶ色は、それだった。
「大丈夫?」
悠誠くんが!うつむき加減のわたしの顔を覗き込む。わたしは黙り込んでしまったことひ気がついた。
「ごめん。それで、悠誠くんの音はきれいな青だったの。澄んだ、深い青」
変に思われただろうか。わたしは、つばを飲み込んだ。
「それは素敵だね」
悠誠くんは、羽二重餅のように柔らかく微笑んだ。
「優しい青の音だ」
「青の音?」
悠誠くんは聞き逃さなかった。こんな夜中にバイオリンを弾いている風変わりな人には、話しても驚かれないかもしれない。
「わたし、音に色がついて見えるの。共感覚って言うんだって」
中二病だと思われそうで、普段は他人に話すことはない。
「学校の放送は基本がメタリックで、話している人によってオレンジや緑とか、いろんな色が添えられる。話している人の声にはその人の性格や心情が顕れる。恋バナをする友達はピンクやクリームイエローの優しい色。街で見かける赤ちゃんに話しかけるお母さんは、包み込むような薄いオレンジ色。……喧嘩をしている人たちは、刃物のような鈍い銀色」
わたしは思わず唇を噛む。水銀のような、鉛のような、鈍い銀色で満たされたあの家で、わたしを窒息しそうだった。
黒や、絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたような茶色も、わたしに投げつけられる。この汚い色が、お前の存在なんだ。そう言われている。何の価値もない、誰も使わない汚い色になった責任の在り処を、お父さんとお母さんは押し付けあっている。
わたしは、下水のように汚い色だ。鈍い銀で傷つけられ、ごみの中に捨てられる。
わたしが両親の喧嘩を聞くときに思い浮かぶ色は、それだった。
「大丈夫?」
悠誠くんが!うつむき加減のわたしの顔を覗き込む。わたしは黙り込んでしまったことひ気がついた。
「ごめん。それで、悠誠くんの音はきれいな青だったの。澄んだ、深い青」
変に思われただろうか。わたしは、つばを飲み込んだ。
「それは素敵だね」
悠誠くんは、羽二重餅のように柔らかく微笑んだ。



