わたしは、頭を悩ませていた。翔太郎のことだ。
澪や、ほかの友達に相談するわけにもいかない。わたしだけで、解決しなければいけない。
いや、それも本当は間違っている。解決はしているのだ。わたしは悠誠くんが好きなのだから。
やっぱりわたしは臆病者なのだ。翔太郎を傷つけてしまうことが怖い。自分が悪者になりたくないだけの、卑怯者。
翔太郎に告げなければいけない。わかっていながらも、わたしは翔太郎から逃げ続けた。
そして、一週間が経った。
「瑠衣! 花火、見に行く?」
学校の休み時間、すっかり夏風邪から復活した澪が、教室でぴょんと跳ねる。
「今度の土曜日! うちの町の数少ないイベントだからね!」
わたしの住む町では、珍しく六月に花火大会がある。雨と重なれなければ、暑すぎず快適に見られるのが良いが、梅雨時を選ぶというのも、開催者はそうとうなギャンブラーだと毎年思っている。
「うーん、今回はやめておく」
「え! なんで!」
去年は澪と川辺まで出向いて花火を見に行った。今年も当然一緒に行くものだと思っていただろう澪は、明らかに驚いている。
「ちょっと勉強に集中したくて……。最近成績が上がってきているから」
半分嘘で、半分本当だった。
成績は、あの模試以降も維持できている。塾の小テストくらいしか指標がないが、やや上がってきているようにも感じる。
それでもきっと櫻山女学院には届かないから、両親はまだ納得していないが、目に見える成果に喧嘩の回数は減っていた。
しかし、勉強に集中したいから行きたくないのではない。そんな気分ではないのだ。今、わたしは悠誠くんへの想いと、翔太郎に対する返事のことで頭がパンクしそうなのだ。勉強はなんとかできているものの、花火のことなど考えている余裕はない。
「確かに瑠衣が頑張っているのはわかるけどー……来年は受験生だから、もっと行けなくなっちゃうよ。しかも土曜日の天気、晴れ予報だし」
「うん……そうなんだけど……」
「悩みでもあるの?」
澪は空いていたわたしの机の前の椅子に座る。
「もしかして、恋の悩み?」
澪はニッと笑う。わたしは思わず目線をそらしてしまった。これでは、バレバレではないか。
「え、マジで……」
澪か絶句する。わたしは、周りを見渡して翔太郎がいないことを確認した。
「誰にも言わないで。本当に誰にもだよ」
「うん! わかった!」
澪は小声で、しかし爛々とした目で大きく頷いた。
「好きな人が……できて……」
澪はキラキラと輝く目でわたしを見ている。先を促されていた。
「一個上の、先輩なんだけど……」
詳しく言うわけにはいかない。下校時間後、どころか、深夜に学校に侵入してバイオリンを弾いてもらっているなど、大問題だ。
「えー、そうなんだ。そっかぁ、そっかぁ。良かったねぇ」
「……深く聞かないの?」
「瑠衣が聞いてほしくなさそうだから」
澪は猫のように笑う。澪は人の気持ちに聡い。そういうところは、悠誠くんにも似ている。
「一個上の先輩なら、うちのお姉ちゃんと同い年だ。お姉ちゃん、顔が広いから、すぐ見つけ出しちゃいそうだし、聞かないでおく。瑠衣がいつか相談したくなったら言って。わたし、応援するから」
澪の友情に胸が熱くなる。
「ありがとう」
澪に話せたことで、やはりわたしは悠誠くんのことが好きだと自覚する。
翔太郎に言わなければいけない。覚悟を、決めなければ。
「じゃあ、花火はその人と見に行ったほうが良いよね。ちょっと寂しいけど、がんばれ!」
目から鱗が落ちたようだ。そういえば、わたしは悠誠くんと音楽室でしか会っていない。
一緒に花火を見られたら素敵だろうな。
そう思うと、子供の頃の遠足の前のように、わくわくしてきた。
わたしは、笑顔で頷いた。
澪や、ほかの友達に相談するわけにもいかない。わたしだけで、解決しなければいけない。
いや、それも本当は間違っている。解決はしているのだ。わたしは悠誠くんが好きなのだから。
やっぱりわたしは臆病者なのだ。翔太郎を傷つけてしまうことが怖い。自分が悪者になりたくないだけの、卑怯者。
翔太郎に告げなければいけない。わかっていながらも、わたしは翔太郎から逃げ続けた。
そして、一週間が経った。
「瑠衣! 花火、見に行く?」
学校の休み時間、すっかり夏風邪から復活した澪が、教室でぴょんと跳ねる。
「今度の土曜日! うちの町の数少ないイベントだからね!」
わたしの住む町では、珍しく六月に花火大会がある。雨と重なれなければ、暑すぎず快適に見られるのが良いが、梅雨時を選ぶというのも、開催者はそうとうなギャンブラーだと毎年思っている。
「うーん、今回はやめておく」
「え! なんで!」
去年は澪と川辺まで出向いて花火を見に行った。今年も当然一緒に行くものだと思っていただろう澪は、明らかに驚いている。
「ちょっと勉強に集中したくて……。最近成績が上がってきているから」
半分嘘で、半分本当だった。
成績は、あの模試以降も維持できている。塾の小テストくらいしか指標がないが、やや上がってきているようにも感じる。
それでもきっと櫻山女学院には届かないから、両親はまだ納得していないが、目に見える成果に喧嘩の回数は減っていた。
しかし、勉強に集中したいから行きたくないのではない。そんな気分ではないのだ。今、わたしは悠誠くんへの想いと、翔太郎に対する返事のことで頭がパンクしそうなのだ。勉強はなんとかできているものの、花火のことなど考えている余裕はない。
「確かに瑠衣が頑張っているのはわかるけどー……来年は受験生だから、もっと行けなくなっちゃうよ。しかも土曜日の天気、晴れ予報だし」
「うん……そうなんだけど……」
「悩みでもあるの?」
澪は空いていたわたしの机の前の椅子に座る。
「もしかして、恋の悩み?」
澪はニッと笑う。わたしは思わず目線をそらしてしまった。これでは、バレバレではないか。
「え、マジで……」
澪か絶句する。わたしは、周りを見渡して翔太郎がいないことを確認した。
「誰にも言わないで。本当に誰にもだよ」
「うん! わかった!」
澪は小声で、しかし爛々とした目で大きく頷いた。
「好きな人が……できて……」
澪はキラキラと輝く目でわたしを見ている。先を促されていた。
「一個上の、先輩なんだけど……」
詳しく言うわけにはいかない。下校時間後、どころか、深夜に学校に侵入してバイオリンを弾いてもらっているなど、大問題だ。
「えー、そうなんだ。そっかぁ、そっかぁ。良かったねぇ」
「……深く聞かないの?」
「瑠衣が聞いてほしくなさそうだから」
澪は猫のように笑う。澪は人の気持ちに聡い。そういうところは、悠誠くんにも似ている。
「一個上の先輩なら、うちのお姉ちゃんと同い年だ。お姉ちゃん、顔が広いから、すぐ見つけ出しちゃいそうだし、聞かないでおく。瑠衣がいつか相談したくなったら言って。わたし、応援するから」
澪の友情に胸が熱くなる。
「ありがとう」
澪に話せたことで、やはりわたしは悠誠くんのことが好きだと自覚する。
翔太郎に言わなければいけない。覚悟を、決めなければ。
「じゃあ、花火はその人と見に行ったほうが良いよね。ちょっと寂しいけど、がんばれ!」
目から鱗が落ちたようだ。そういえば、わたしは悠誠くんと音楽室でしか会っていない。
一緒に花火を見られたら素敵だろうな。
そう思うと、子供の頃の遠足の前のように、わくわくしてきた。
わたしは、笑顔で頷いた。



