演奏が終わる。
澄んだ泉のような世界が消えた。そこは、いつもの音楽室だ。
「ごめんね、考えごとの邪魔しちゃった?」
悠誠くんは言いにくそうに話す。
「ううん、すごく……整理ができた。ありがとう。今の曲は?」
「グノーとバッハの『アヴェ・マリア』という曲だよ」
「聞いたことある。有名な曲だよね」
「うん。柔らかくて、温かな空気をいっぱいに含んだような音が好きなんだ。僕の技術で表現できているかわからないけれど」
わたしは笑顔で言う。
「とても素敵な演奏だった」
自覚してしまえば、その笑顔にも心臓が跳ねる。
わたしは、言うべきだろうか。あなたのことが好きだと気づきました、と。
小さく首を振る。
まだ、そんな勇気はない。
「どうしたの?」
挙動不審になったわたしを、悠誠くんが不思議そうに見ていた。
「ううん、気にしないで。今日はもう帰るね。お母さんに嘘ついて来ているんだ」
「そうなの? というか、遅い時間にやってくること、いつも僕も心配してるんだけど……」
「悠誠くんだって遅くまでここで弾いているじゃない」
「僕は良いの」
そう言って笑う。いろんな笑顔がすべて愛しい。
ピアノの椅子を立ち上がる。
「じゃあ、またね」
「うん、またね」
わたしたちはここで会うことが当然のようになっていた。
こんな日が、いつまでも続くと思っていた。
澄んだ泉のような世界が消えた。そこは、いつもの音楽室だ。
「ごめんね、考えごとの邪魔しちゃった?」
悠誠くんは言いにくそうに話す。
「ううん、すごく……整理ができた。ありがとう。今の曲は?」
「グノーとバッハの『アヴェ・マリア』という曲だよ」
「聞いたことある。有名な曲だよね」
「うん。柔らかくて、温かな空気をいっぱいに含んだような音が好きなんだ。僕の技術で表現できているかわからないけれど」
わたしは笑顔で言う。
「とても素敵な演奏だった」
自覚してしまえば、その笑顔にも心臓が跳ねる。
わたしは、言うべきだろうか。あなたのことが好きだと気づきました、と。
小さく首を振る。
まだ、そんな勇気はない。
「どうしたの?」
挙動不審になったわたしを、悠誠くんが不思議そうに見ていた。
「ううん、気にしないで。今日はもう帰るね。お母さんに嘘ついて来ているんだ」
「そうなの? というか、遅い時間にやってくること、いつも僕も心配してるんだけど……」
「悠誠くんだって遅くまでここで弾いているじゃない」
「僕は良いの」
そう言って笑う。いろんな笑顔がすべて愛しい。
ピアノの椅子を立ち上がる。
「じゃあ、またね」
「うん、またね」
わたしたちはここで会うことが当然のようになっていた。
こんな日が、いつまでも続くと思っていた。



