廊下に出たところで背の高い、男子の先輩たちに捕まった。
「君! 学校見学の中学生だよな。バレーボールに興味はないか?」
「はぁ……」
 目当ては翔太郎のようだ。
「良かったら小体育館でやっていってくれよ。背も高いし、体格も良いな!」
「いや、俺は……」
「翔太郎、行こうよ」
 わたしは翔太郎を見上げる。
「お、こっちの彼女は乗り気だね! 彼女に良いところ見せようよ!」
「か、彼女……!」
 わたしは先輩から発せられたその単語に赤面する。
「こいつは彼女じゃないっす。でも、先輩たち、諦めてくれそうにないんで、行きましょう」
「おお! そうこなくちゃ」
 先輩たちが沸き立った。
「君、部活何やっているの?」
「帰宅部っす」
「はぁ!? もったいない!」
 先輩たちに囲まれて、翔太郎は歩いていく。その後ろを、わたしはちょこちょこと追いかけていった。

 バン! という気持ちの良い音が鳴り渡る。
「ナイス! 良いスパイクだ! バレーボール初心者って本当かよ?」
「一応、体育でやったことあるっす」
 翔太郎は、先輩から出されるトスに向かってきれいに跳び、ボールを鋭く叩き落とす。相手コートにいる先輩は、レシーブに追いつけない。
「すげぇ逸材だ! うちに入学したら是非入部してくれ!」
「……うす」
 翔太郎は曖昧に頷く。それもそのはずだ。翔太郎の志望校は廉城高校で、この藤瑶館高校ではない。すぐさま否定しなかったところに、翔太郎の大人っぽさを見た。
「もう一本!」
 トスが上がる。翔太郎は高く跳躍し、再びボールを強く叩く。コートぎりぎりのコーナーに軌道が突き刺さった。
 先輩たちは歓声を上げる。翔太郎が額の汗をシャツの袖で拭きながら、わたしの方を見る。ピースをして、にやりと笑った。