水槽の中を小さい魚が一生懸命泳いでいる。
「わぁ……可愛い」
 わたしは、水槽を覗き込んで観察する。メダカのほかに、水中に住む昆虫や植物もいる。
「この近くの川から採集した生物たちです。生物部では、外の畑で植物も育てているんですよ」
「そうなんですね」
 眼鏡をかけてポニーテールにした女性の先輩が説明をしてくれる。
「ねぇ、見て、翔太郎。可愛いよ」
「見てるよ。メダカなんて昔よく採って遊んだだろ」
 抜けるような青い空や、ひんやりとした水の感覚を思い出す。幼馴染の翔太郎とは、子供の頃、よく遊んだ。
「そういえば、そうだね。小学校の低学年の頃……翔太郎のお母さんに着いてきてもらって、小さな川でメダカを見て。楽しかったなぁ」
 ポニーテールの先輩が穏やかに頷く。
「きれいな川だったのですね。今ではメダカも数が減ってしまって……保護熱が高まっているのですが、逆に遺伝的多様性を減少させる遺伝子汚染という問題が起きています」
 翔太郎が答える。
「同じ『メダカ』という種類でも生息水域ごとに遺伝子が違うっていうやつですか?」
「よくご存じですね。ざっくり、そんな感じです」
 翔太郎の博識に舌を巻く。さすが、塾でもトップの成績だ。
「すごいね、翔太郎」
「このくらい、普通だろ」
 素っ気ない様子の翔太郎は、再びわたしの手を握る。
「ほら、次行こう」
「わ。先輩、ありがとうございました!」
 ポニーテールの先輩は、最後まで笑顔を崩さずに手を振っていた。