「いやー! すごかった! 皆すごかった!」
 講堂から小魚の群れのように出てくる中学生の中で、澪が大きく伸びをする。
「最後はオーケストラだもんね! 普通科の人も部員にいるって言ってたけど、すごくきれいで全然わからなかった」
 澪は興奮している。
「来てよかったなぁ。ね、素敵な学校だね。瑠衣!」
 わたしは大きく頷く。
 今日は、最初に講堂で音楽会を聞いて、そのあと学校説明、そして、校内見学という流れだ。学校説明をしてくれた生徒会の先輩方も優しくハキハキとした印象だった。
「部活の出し物とか、進路相談とかもあるみたいだけど、どこから……あれ、澪?」
 周りを見渡しても、さっきまでそこにいた澪がいない。はぐれてしまったか。
「澪! 澪!」
「落ち着けって」
 そう言ってわたしの肩に手を置いたのは翔太郎だった。
「スマホで連絡すれば良いだろ」
「あ! そうだね」
 急に心細くなって、取り乱した自分に顔が熱くなる。鞄からスマートフォンを取り出そうとしたが、その手首を翔太郎が握った。
「あとで連絡すれば良いだろ。しばらく二人で回ろうぜ」
「え、なんで」
「たまには良いだろ」
 翔太郎はわたしの手を引いて、どんどん進んでいく。
 その勢いに負けて、わたしは足をもつれさせながら、人ごみの中を歩いていった。