リビングのソファに座って、わたしは縮こまっている。
 目の前に置かれたのは、今日の英語の小テスト。ICTを進める塾も、テストだけは実践を意識してか、紙で行われている。
「七十六点。櫻山女学院専用のクラスにも成績が低すぎて入れず、私立一般のクラスの小テストで七十六点」
 お母さんは、ただ淡々と事実を述べる。それが逆に恐ろしく、わたしは今すぐにでも逃げ出したい。
「絶対わたしに似ていないわ。こんな出来損ない。どうやってこれで櫻山女学院に入るの?」
 わたしは、何も答えることができない。震えながら、絞り出す。
「ごめんなさい……」
「謝ってほしいんじゃないの。そんなの何の意味ももたないの。成績を上げてほしいの」
 そんなこと言われたって、などと反論ができるはずもない。
「お兄ちゃんは優秀なのに、なんで瑠衣はこうなの」
 両拳を強く握る。てのひらに爪が刺さる。
 どうしてわたしの出来が悪いかなんて、わたしにもわからない。
「ねぇ、ちゃんと勉強しているの? 予習して、今回のテストのように間違えたところは解き直して」
「やって……います……」
「それなのにできないの? 勉強の仕方が悪いんじゃなくて、本当に頭が悪いの?」
 ストレートに「頭が悪い」と言われて、わたしの涙腺は限界になる。顔に力を入れて、涙を流さないようにこらえる。
「わたしは中学から櫻山女学院だったから、その感覚はまったくわからないわ」
 お母さんは、櫻山女学院を出て、東京の有名な私大を卒業し、Uターンで地元就職している。
「そんな難しいことを言ってるつもりはないのよ。いきなり櫻山女学院に合格できるレベルになれって言ってるわけじゃないの。せめて、私立一般の小テストくらい百点で当たり前って言ってるの!」
 ソファの前に置かれたローテーブルを、お母さんが平手で叩く。ばしん、という派手な音に、わたしは身をすくませた。
 ああ、まただ。鈍い銀色の声に押しつぶされそうになる。
「泣けば許されると思っているんじゃないわよ!」
 いつの間にか、わたしは涙を流していたらしい。
「お父さんが帰ってきたら、またわたしのせいだと言われるじゃない! 冗談じゃない。わたしは櫻山女学院出身なのよ。瑠衣の出来の悪さがわたしが原因のわけがないわ。わたしの子供とは思えない」
 お母さんは立ち上がって、ドスドスと足音を立ててキッチンの方へと歩いていった。
「さっさとご飯食べなさい!」
「はい……」
 理不尽な叱咤に、わたしは従うほかない。
 七十六点という現実は目の前にあった。
 わたしが、悪いんだ。