生ぬるい風が頬をかすめる。

「加澤結人さん――ですね」

立ち尽くす僕の隣に、先ほどの少女が立っていた。どうして僕の名前を知っているんだろう。彼女は急いだ口調で続けた。

「結人さん、急いでください」

「えっ？」

「お願いです、もう時間がありません！」

「どういう……」

「瑞夏さんが危ないんです」

真剣な眼差しでそう言い、少女は一枚の紙を僕に手渡した。それは、小さな写真だった。

松野が危ない？　その言葉を頭の中で繰り返しながら、僕は写真を見て息を呑む。そこに写っていたのは、本屋近くの道。歩道のコンクリートはひび割れ、点字ブロックがところどころ欠けている。見覚えのある風景。画面の奥には青い乗用車が走り、そして、画面の右手――松野瑞夏が、横から飛び出したトラックに接触する瞬間が、まるで事故を再現したように切り取られていた。

写真の右下には、オレンジ色でこう書かれていた。

「午後六時三十二分」

今から、五分後――。

「わたしは、歌扇野高校の関係者に起きる『不幸な未来』を予知できます。そしてこの写真は、数分後の未来。瑞夏さんに起こる不幸の瞬間です」

――未来の予知。不幸。急に現れた言葉が現実味を帯びるには、少し時間が必要だった。

「松野が……？　どういうこと？」