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　放課後の、空っぽの席。

　いつも、誰とも話さずに、すぐに帰ってしまう女の子。

　孝慈(こうじ)が言った言葉。

「だから、松野瑞夏(まつのみずか)は、お前のことが好きなんだって」

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　机の上に、オレンジ色の光が差していた。

　昼休みにあったことを、ぼんやりと思い出していた僕は、窓から差し込むまぶしい夕日にハッとして、現実に戻った。

　黒板の上の時計を見る。午後六時十五分。

　七月の終わり。夏休みまで、あと二日。

　明るさと時計の針が合っていない気がして、いつも不思議な感じになる。

　──もう、こんな時間か。

　提出物を数枚まとめて、誰もいない教室で、小さくため息をついた。

　ロッカーに向かって歩きながら、ふと視線が止まった。

　窓際、前から三列目。松野瑞夏の席。

　誰もいないはずの教室なのに、その席だけ、ぽつんと取り残されているように見えた。

　胸の奥が、少しだけチクリと痛んだのは──たぶん僕が、彼女のことを特別だと思っているからなんだろう。

　気持ちをごまかすように、僕は教室を出た。

　職員室に用事をすませて帰ろうとすると、廊下にも夕日が差し込んでいた。

　光は細長く伸びて、奥の渡り廊下へと続いている。

　うちの学校、歌扇野(かおの)高校には、取り壊しが決まっている旧校舎がある。

　今の校舎から古い体育館へとつながる渡り廊下の先に、その旧校舎がある。

　窓から見える夕日に、なんとなく引き寄せられるようにして、僕は渡り廊下の真ん中まで歩いた。

　そこから見える旧校舎は、夕焼けを背にして、少し傾いているように見える。

　だけどそのシルエットは、どこか懐かしくて、僕はずっと見ていたくなった。

　──この景色、好きだな。

　そう思って、ようやく帰ろうと靴を履いていたときだった。

「かざわゆいとさん……」

　かすかに、僕の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。

　振り返っても、誰もいない。

　気のせいかな、とそのまま校門を出る。

　──これが、僕の人生を変える出会いになるとは知らずに。