――翌朝。
 私は作ったばかりのお弁当の写真を撮ってインスタに投稿した。
 しらす入りの卵焼きが影武者生活のトップランナーに。

 普段はお弁当袋を手提げに入れてるけど、先輩の分とサイズが違うので判別できるように手に持った。

 先輩用のお弁当は学校の下駄箱前で莉麻ちゃんに渡し、ランチタイムに新汰先輩へ届けられる。
 私は先輩の反応が知りたくて、教室から莉麻ちゃんの背中を追っていた。
 お弁当を受け取った彼は、目の前に掲げてマジマジと見つめる。

「……ねぇ、このお弁当袋をどこかでなくしたことはない?」
「え…………。しょっ……、しょっちゅうなくしてるからあんまり覚えてないかな~」
「そっか。そうなんだ……」
「あははは……。嫌になっちゃうよねぇ」

 伝達ミスが生じてしまったけど、実はその答えで正解。
 お弁当箱をどこかに置き忘れてしまうクセがあるから、同じお弁当袋を何枚か手作りしていた。
 なぜ同じものにこだわってるかと言うと、紛失した際に見つけやすくするため。

 先輩は莉麻ちゃんと別れてから教室を出た。私は再び身を隠しながらそのあとを追う。


 ――到着した先は、穏やかな日差しを照りつける屋上。
 私は屋上扉のガラス窓から覗き込んでその様子を伺った。
 彼は日陰に腰をおろしてお弁当箱を開くと、昨日卵焼きを食べていたときのようなさわやかな笑顔が生まれた。それを見て胸キュンする。
 やっぱりお弁当を作って正解だったな。
 扉越しに自分のお弁当箱を開いて、彼のことを考えながら「いただきます」と食べ始めた。


 ――その日の晩。
 ベッドに寝転びながらおかずのレシピを検索していると、SINからインスタのDMが入った。すかさず開くと『お弁当美味しかったよ。ありがとう』と。
 思わずとろけるようにニヤける。

『いえいえ!! 好き嫌いはありますか? 先輩の好みに合わせますから遠慮せず言って下さいね!』
『ありがとう。実は梅干しが苦手』
『了解です!! 梅干しは一切入れません!』
『明日もお弁当を楽しみにしてるね』
『頑張ります!!!!』

 そこでハートマークが押されて会話が終了した。
 空になったお弁当箱を見ただけでも嬉しかったのに、律儀にDMを送ってくれるなんて。

 スマホを握りしめたままうっとりしていると、明日委員会だったことを思い出す。

「やっば! クッキーを作ると宣言してたことを思い出した。よぉ〜しっ! 明日のために腕を奮うぞ~!」

 重い体をひねって体を起こし、キッチンに足を向かわせてクッキー作りを始めた。
 今度はもっと近くで喜んでる姿を見たいなと思いながら……。