「俺少し時間かかるっぽいからリカ先に出てて」
「了解。どしたの?」
「ピザまん、今から作ってくれるらしい」
「今日はピザまんなんだ」
「ピザの気分だったから」
帰り道、また僕らは昨日と同じコンビニに立ち寄った。
今日も学校は午前で終わる日だったし、もう一種の習慣なのだから仕方がない。
高校生男子っていう生き物はいくら食べても足りないような生き物なのだし。
「じゃあ、僕も少しうろついたら外でてるよ」
「分かった」
じゃあ、追加で買うのが炭酸系のジュースが欲しいな。あと……。
色々と手に取り、レジのショーケースの横で待つ颯太の隣に立つ。
颯太はレジの奥からまだかまだかとピザまんを待っていて僕に気づいていない。
そういえば、昔から颯太は食べるのが好きだった。
昨日だって、自転車に轢かれたのに、自分の心配じゃなくて肉まん落としてたことにショック受けてたくらいだし……。
「じゃあ、僕外で待ってるからね」
「あっ!了解」
会計終わったも気づかないってどんだけ楽しみなんだよ。
クスッと笑いながら自動ドアをくぐる。
店のすぐ横は……煙草吸ってる人が居る。
あんまり煙草の匂いが好きじゃないんだよね……。
少し迷った結果、駐車場を出て少し離れたところで待つことにした。
もちろん、店を出て真っ直ぐ行った、颯太が分かりやすい位置で。
「颯太には悪いけど、先に食べとこうかな」
「あのっ!」
レジ袋の中からオムライスのおにぎりを取り出そうとすると、後ろから声をかけられ、身体がビクッと震えた。
「あの、昨日はすみませんでした!私のこと覚えていますか?」
「あ、昨日の自転車の」
昨日と同じ制服姿の彼女は今日は自転車を押しているようだった。
「妹さんは大丈夫でしたか?」
「はい。遊んでて転んだみたいで……。でも、何も問題はなく昨日は検査入院して、もう退院したみたいです」
「それは良かった」
「リカさん達の方は大丈夫でしたか?」
その瞬間、心臓がドクッと跳ねた気がした。
その名前は、あまり颯太以外の人に呼んで欲しくなかったから。
「僕、名前教えたことありましたっけ?」
「昨日、私が轢いた人が、そう呼んでいたのを聞いたので」
『リカ危ないっ!』
僕の腕を引いてくれた時に確かに颯太は言っていた。
さすがは県内一の名門校に受かった人だ。
咄嗟の状況でも記憶力が働くなんて。
「名前、違いましたか?」
「いや……」
合っている、って言ったらこの人も、みんなと同じことを言うだろうか?
……逆にいい機会かもしれない。
この名前の因縁もここで克服しておこう。
きっと、その方が僕のこれから人生にとって為になるはずだ。
『二人きりの秘密だね』
ふと、昨日の朝、颯太が僕に言った言葉が頭の中でこだました。
「いや、僕の名前はリツカっていうんだ。リカはただのあだ名だからリツカって呼んで欲しい」
気がつけばそう口から出ていた。
どうやら、いつの間にか僕も颯太との特別な関係という名前のものに惹かれていたのかもしれない。
そう、思ってしまった。
「そうなんですね。失礼しました」
「それで、どうかしたんですか?」
「その事なんですけど……」
すると、彼女は急にモジモジしだして、僕に一枚の紙を手渡した。
「これ、私の連絡先なんですけど、これを颯太さんに渡して欲しくって」
「颯太に連絡先を?」
中には心配の一言と、彼女の名前と学校と学年などの基礎的な情報と連絡先のIDが書かれていた。
どうやら彼女は僕らの一個下の後輩らしい。
というか、しっかり颯太の名前も覚えてることに少し驚いた。
僕も颯太の名前を呼んだから、多分颯太の名前もその時に覚えたんだろうな。
「あ、それは、その、なんというか……そう!本当は怪我してた場合、私が責任を取らないといけないので!」
「あぁ、そっか。分かった渡しておくよ」
連絡先が書かれているらしい、二つ折りの紙を受け取った。
「それじゃあ、リツカさん。私、家に帰って妹のこと見とかないといけないので」
「あ、うん。じゃあね」
そう言い残すと彼女は全速力で自転車を漕いで去っていった。
「そんなスピード出してたらまた事故るよ……」
苦笑した後に、手に残った紙を見つめる。
彼女が言っていたことは、きっと十中八九建前で本音は颯太の連絡先が欲しいだけだろうな。
まぁ、颯太ってイケメンだしな。
曲がり角を曲がった先にはイケメンが居て……なんてまるで少女漫画みたいな出会いだな。
ちょっとばかり、少女漫画より危険だったけど。
「リカ!」
颯太の声がしてコンビニの方へ振り返るとすぐそこまで颯太が迫っていた。
その表情はなんだか少し緊迫していた。
「ピザまん買えた?」
「買えた……けど、今リカ誰と話してたの?」
「誰って、昨日颯太のこと轢いてた人」
「あいつか……」
ボソッと聞こえた颯太の声はいつもの五倍ほど口調が荒々しかった。
「それで、何貰ったの?」
「あぁ、彼女の連絡先だよ……ってどうしたの、颯太?顔怖いよ?」
「連絡先貰ったんだ?」
「え、うん。そうだよ」
「それに、俺の聞き間違いじゃなきゃ、あの子、さっき『リカ』って呼んでなかった?」
「あぁ、呼んでたね。颯太が事故の時に僕の名前を呼んでたのを聞いたみたいだよ」
「その名前、俺だけの特別だと思ってた……」
さっきから変わって、颯太は子猫のように涙目で震えていた。
「俺、ずっとリカのことが好きだったのに」
「えっ?」
「ずっと、ずっと。あの女の子よりもずっと前からリカのことが好きだった」
「本当に?」
「うん」
驚きで僕の声まで掠れそうになる。
「俺、ずっと頑張ってたんだよ?リカと絶対に一緒になりたいから、外堀を埋めたくて、人付き合いが苦手だったけど、リカのご両親とも仲良くなったし、リカとも毎日学校行くために、苦手な朝も頑張って毎日早起きした!学校でもリカのこと他の人に取られないようにって行動してるし、かっこいいって思ってもらえるように頑張ってきたのに……リカのこと、なんでも知ってるって胸張って言えるのに……」
颯太の声は徐々に消え言ってしまうみたいに小さくなっていく。
「リカって名前も、俺だけが呼べる、唯一の特別だと思ってた……」
そして、ついに颯太の声は消えてしまった。
俯いている颯太に僕は目を見開いた。
颯太がこんなに僕を思っていてくれたなんて。
今までそんなこと、一度も颯太の口から聞いたことがなかったから、驚いた。
颯太が僕といつも一緒にいるのは、口下手で友達の少ない颯太が単に僕に懐いているからだと思っていた。
けど、違ったみたいだ。
「颯太、顔上げて。それから手を出して」
恐る恐る顔を上げ、右手を差し出した颯太の手のひらにさっき渡された紙を置く。
「勘違いしてるみたいだけど、これ颯太宛てだからね」
「え?」
「それと、リカって呼んでたのは最初だけ。その後リツカって呼んでって訂正したから。最後の方の話聞いてなかったでしょ?」
「あの……」
「それに!」
ビクッと身体を震わせた颯太の目を見る。
「颯太が持ってる特別って結構あるからね?唯一じゃないから」
僕が一番一緒にいる人も、僕が一番話す人も、一番良く知ってる人も、一番仲のいい人も、全部颯太。君なんだよ。
「胸を張って……って僕が言えたことじゃないか」
僕がイケメンに、恋愛のアドバイスなんて傍から見たら笑われてしまう。
「今日は颯太の家に行こ。一緒に遊ぼうよ」
「うんっ!」
颯太は涙を拭いて、笑顔で返事した。
今までの、余裕のある微笑みじゃなくて、子供の時みたいな無邪気な笑顔で。
「了解。どしたの?」
「ピザまん、今から作ってくれるらしい」
「今日はピザまんなんだ」
「ピザの気分だったから」
帰り道、また僕らは昨日と同じコンビニに立ち寄った。
今日も学校は午前で終わる日だったし、もう一種の習慣なのだから仕方がない。
高校生男子っていう生き物はいくら食べても足りないような生き物なのだし。
「じゃあ、僕も少しうろついたら外でてるよ」
「分かった」
じゃあ、追加で買うのが炭酸系のジュースが欲しいな。あと……。
色々と手に取り、レジのショーケースの横で待つ颯太の隣に立つ。
颯太はレジの奥からまだかまだかとピザまんを待っていて僕に気づいていない。
そういえば、昔から颯太は食べるのが好きだった。
昨日だって、自転車に轢かれたのに、自分の心配じゃなくて肉まん落としてたことにショック受けてたくらいだし……。
「じゃあ、僕外で待ってるからね」
「あっ!了解」
会計終わったも気づかないってどんだけ楽しみなんだよ。
クスッと笑いながら自動ドアをくぐる。
店のすぐ横は……煙草吸ってる人が居る。
あんまり煙草の匂いが好きじゃないんだよね……。
少し迷った結果、駐車場を出て少し離れたところで待つことにした。
もちろん、店を出て真っ直ぐ行った、颯太が分かりやすい位置で。
「颯太には悪いけど、先に食べとこうかな」
「あのっ!」
レジ袋の中からオムライスのおにぎりを取り出そうとすると、後ろから声をかけられ、身体がビクッと震えた。
「あの、昨日はすみませんでした!私のこと覚えていますか?」
「あ、昨日の自転車の」
昨日と同じ制服姿の彼女は今日は自転車を押しているようだった。
「妹さんは大丈夫でしたか?」
「はい。遊んでて転んだみたいで……。でも、何も問題はなく昨日は検査入院して、もう退院したみたいです」
「それは良かった」
「リカさん達の方は大丈夫でしたか?」
その瞬間、心臓がドクッと跳ねた気がした。
その名前は、あまり颯太以外の人に呼んで欲しくなかったから。
「僕、名前教えたことありましたっけ?」
「昨日、私が轢いた人が、そう呼んでいたのを聞いたので」
『リカ危ないっ!』
僕の腕を引いてくれた時に確かに颯太は言っていた。
さすがは県内一の名門校に受かった人だ。
咄嗟の状況でも記憶力が働くなんて。
「名前、違いましたか?」
「いや……」
合っている、って言ったらこの人も、みんなと同じことを言うだろうか?
……逆にいい機会かもしれない。
この名前の因縁もここで克服しておこう。
きっと、その方が僕のこれから人生にとって為になるはずだ。
『二人きりの秘密だね』
ふと、昨日の朝、颯太が僕に言った言葉が頭の中でこだました。
「いや、僕の名前はリツカっていうんだ。リカはただのあだ名だからリツカって呼んで欲しい」
気がつけばそう口から出ていた。
どうやら、いつの間にか僕も颯太との特別な関係という名前のものに惹かれていたのかもしれない。
そう、思ってしまった。
「そうなんですね。失礼しました」
「それで、どうかしたんですか?」
「その事なんですけど……」
すると、彼女は急にモジモジしだして、僕に一枚の紙を手渡した。
「これ、私の連絡先なんですけど、これを颯太さんに渡して欲しくって」
「颯太に連絡先を?」
中には心配の一言と、彼女の名前と学校と学年などの基礎的な情報と連絡先のIDが書かれていた。
どうやら彼女は僕らの一個下の後輩らしい。
というか、しっかり颯太の名前も覚えてることに少し驚いた。
僕も颯太の名前を呼んだから、多分颯太の名前もその時に覚えたんだろうな。
「あ、それは、その、なんというか……そう!本当は怪我してた場合、私が責任を取らないといけないので!」
「あぁ、そっか。分かった渡しておくよ」
連絡先が書かれているらしい、二つ折りの紙を受け取った。
「それじゃあ、リツカさん。私、家に帰って妹のこと見とかないといけないので」
「あ、うん。じゃあね」
そう言い残すと彼女は全速力で自転車を漕いで去っていった。
「そんなスピード出してたらまた事故るよ……」
苦笑した後に、手に残った紙を見つめる。
彼女が言っていたことは、きっと十中八九建前で本音は颯太の連絡先が欲しいだけだろうな。
まぁ、颯太ってイケメンだしな。
曲がり角を曲がった先にはイケメンが居て……なんてまるで少女漫画みたいな出会いだな。
ちょっとばかり、少女漫画より危険だったけど。
「リカ!」
颯太の声がしてコンビニの方へ振り返るとすぐそこまで颯太が迫っていた。
その表情はなんだか少し緊迫していた。
「ピザまん買えた?」
「買えた……けど、今リカ誰と話してたの?」
「誰って、昨日颯太のこと轢いてた人」
「あいつか……」
ボソッと聞こえた颯太の声はいつもの五倍ほど口調が荒々しかった。
「それで、何貰ったの?」
「あぁ、彼女の連絡先だよ……ってどうしたの、颯太?顔怖いよ?」
「連絡先貰ったんだ?」
「え、うん。そうだよ」
「それに、俺の聞き間違いじゃなきゃ、あの子、さっき『リカ』って呼んでなかった?」
「あぁ、呼んでたね。颯太が事故の時に僕の名前を呼んでたのを聞いたみたいだよ」
「その名前、俺だけの特別だと思ってた……」
さっきから変わって、颯太は子猫のように涙目で震えていた。
「俺、ずっとリカのことが好きだったのに」
「えっ?」
「ずっと、ずっと。あの女の子よりもずっと前からリカのことが好きだった」
「本当に?」
「うん」
驚きで僕の声まで掠れそうになる。
「俺、ずっと頑張ってたんだよ?リカと絶対に一緒になりたいから、外堀を埋めたくて、人付き合いが苦手だったけど、リカのご両親とも仲良くなったし、リカとも毎日学校行くために、苦手な朝も頑張って毎日早起きした!学校でもリカのこと他の人に取られないようにって行動してるし、かっこいいって思ってもらえるように頑張ってきたのに……リカのこと、なんでも知ってるって胸張って言えるのに……」
颯太の声は徐々に消え言ってしまうみたいに小さくなっていく。
「リカって名前も、俺だけが呼べる、唯一の特別だと思ってた……」
そして、ついに颯太の声は消えてしまった。
俯いている颯太に僕は目を見開いた。
颯太がこんなに僕を思っていてくれたなんて。
今までそんなこと、一度も颯太の口から聞いたことがなかったから、驚いた。
颯太が僕といつも一緒にいるのは、口下手で友達の少ない颯太が単に僕に懐いているからだと思っていた。
けど、違ったみたいだ。
「颯太、顔上げて。それから手を出して」
恐る恐る顔を上げ、右手を差し出した颯太の手のひらにさっき渡された紙を置く。
「勘違いしてるみたいだけど、これ颯太宛てだからね」
「え?」
「それと、リカって呼んでたのは最初だけ。その後リツカって呼んでって訂正したから。最後の方の話聞いてなかったでしょ?」
「あの……」
「それに!」
ビクッと身体を震わせた颯太の目を見る。
「颯太が持ってる特別って結構あるからね?唯一じゃないから」
僕が一番一緒にいる人も、僕が一番話す人も、一番良く知ってる人も、一番仲のいい人も、全部颯太。君なんだよ。
「胸を張って……って僕が言えたことじゃないか」
僕がイケメンに、恋愛のアドバイスなんて傍から見たら笑われてしまう。
「今日は颯太の家に行こ。一緒に遊ぼうよ」
「うんっ!」
颯太は涙を拭いて、笑顔で返事した。
今までの、余裕のある微笑みじゃなくて、子供の時みたいな無邪気な笑顔で。



