「じゃあ、俺肉まんにする」
「もう春なのに?」
「いつ食べても美味しいでしょ、肉まんは」
「僕おにぎりのコーナー見てくるから少し待ってて」
「うん」
学校が午前中に終わったので、ちょうどお腹も減り、帰り道にあるコンビニに二人で入ると颯太はそうそうとレジの方へ進んでいってしまった。
もっとも、学校が午前に終わらなくてもコンビニにはいつも寄っているけれど。
これは僕と颯太の一つの習慣みたいなものだった。
「……それにしても、『俺の』ってどういう意味で言ったんだろう?」
『こいつは俺のなのであんまり手出さないでください』
教室での言葉が頭の中を駆け巡る。
颯太ってもしかして……。
いや、そんなことはないか。
いつもの颯太の言葉足らずだろう。
今までにも、例えば女の子を勘違いさせたり、先生を激怒させたりと、颯太が言葉足らずで誤解を招くことなんて結構な数あった。きっと今回もそれだろう。
口下手な颯太が僕を助けてくれただけだ。
そうやって、そっと頭の中に浮かんでいた不埒な考えを消して、おにぎりを片手にレジへ向かう。
颯太は飲み物が冷やされているショーケースの辺りをうろうろと見ているようだ。
「おまたせ、颯太」
「ううん、全然。何買ったの?」
「チャーハンのおにぎり」
「……リカも大分変わってるね」
「そう?美味しいでしょ、チャーハン」
「美味しいけど」
そんな言い合いをしながら店を出ると颯太は大きな一口で肉まんを頬張った。
「火傷しないの?」
「もう慣れた」
「火傷してんじゃん。気をつけなよ」
「リカは優しいね」
また颯太は優しく微笑んだ。
いつもそうだ。
颯太は僕と会話しているといつも目尻が垂れた、春の陽気のような暖かい表情で僕を見つめる。
ただでさえイケメンなのに、そんなものを向けないでくれとは思う。
一周回って目に毒だ。
そして、ふと思う。
颯太って僕のことをどう思ってるんだろう。
『こいつは俺のなのであんまり手出さないでください』
この言葉が何故かさっきからやけに頭から離れない。
いっそ本人に聞いてみるか?
でも、僕の自意識過剰だったら恥ずかしいしなぁ……。
「リカ危ないっ!」
「え?」
その大声と颯太が僕を突き飛ばした感覚で僕の意識は現実へと急に戻された。
「わっ!」
そう、女の子の甲高い声が響くと、颯太は曲がり角から突如曲がってきた制服姿の女子高生の自転車とぶつかった。
突き飛ばされた僕の方に横転しようとする自転車から、乗っていた女子高生の背中を受け止め、颯太の方を見る。
「颯太!」
一瞬の出来事すぎて何が起こったのか自分でも理解が追いつかない。
多分、曲がり角で左右を確認し忘れた女子高生が僕にぶつかりそうになっているのをいち早く颯太は察知して、僕を事故から守ってくれたのだ。
「なんともない、大丈夫。リカは?」
颯太はそう言ってすんなりと立つ。
服についた砂を払う仕草はとても自然で、本当になんともないようで安心した。
「僕も大丈夫……あなたも大丈夫ですか?」
「大丈夫です!」
両手で受け止めた女子高生もなんとか無事そうだ。
両手からその女子高生を離しと、颯太は今度は僕の腕を掴んで自分の方へとグッと引っ張った。
「なに、颯太?やっぱりどっか痛めたの?」
「……心、かな」
「……頭打った?」
「打ってない」
なら、本当に何言ってんの?
「私の不注意ですみませんでした!」
女子高生は自転車を起こし、僕らの方に深々とお辞儀をした。
「幸い誰も怪我してないみたいですし、大丈夫ですよ」
「でも、何かお詫びを……」
「本当に大丈夫なんで……な!颯太」
「うん。大丈夫」
二人でいる時は、会話が苦手な颯太の代わりにだいたい僕が話すのが僕らの中で定着化していて、颯太はいつものように僕のすぐ後ろで頷いた。
僕の後ろにいたって180の巨体が隠せるわけないのに、とはいつも思うけど。
「でも……」
「それに大丈夫ですか?周りを確認し忘れるくらい急いでたんじゃないんですか?」
彼女の制服をよく見ると僕らの家の近くの、県内で一番偏差値の高い学校の制服だ。
その学校の生徒は普段の生活態度も優秀なことで知られている。
そんな人が左右もろくに確認せずに爆走してるのだから、きっとなにか理由があるのだろう。
「実は妹が頭打って今病院にいるって言われて……」
「僕らは大丈夫なので早く行ってあげてください」
「でも、周り確認しなかったのは私が悪いですから」
話は平行線になりそうだったが、颯太が「本当に大丈夫だから」と一言僕の後ろから言うと、女子高生はまた深いお辞儀と何度も「ありがとうございます」と言ってまた自転車を漕ぎ始めて去っていった。
「颯太はなんで自転車が来るってわかったの?」
「カーブミラーあるし」
「あ、確かに」
考え事をしていたせいで、僕も周りが全然見えてなかった……。
「リカ、本当に気をつけて」
「ごめん。あと、助けてくれてありがとう。颯太」
「どういたしまして」
また颯太は微笑んだが、すぐに子犬のようなしょぼくれた顔になった。
「でも、肉まん落としちゃった」
そのしおらしい顔がさっきの頼りがいのある姿と比べて、なんだか面白くってクスッと笑ってしまう。
「もう一回買いに行こう!僕が奢るよ。助けてくれたお礼」
「いいの?」
颯太は顔をぱあっと明るくさせ、その姿に少しドキッした自分がいた。
「もう春なのに?」
「いつ食べても美味しいでしょ、肉まんは」
「僕おにぎりのコーナー見てくるから少し待ってて」
「うん」
学校が午前中に終わったので、ちょうどお腹も減り、帰り道にあるコンビニに二人で入ると颯太はそうそうとレジの方へ進んでいってしまった。
もっとも、学校が午前に終わらなくてもコンビニにはいつも寄っているけれど。
これは僕と颯太の一つの習慣みたいなものだった。
「……それにしても、『俺の』ってどういう意味で言ったんだろう?」
『こいつは俺のなのであんまり手出さないでください』
教室での言葉が頭の中を駆け巡る。
颯太ってもしかして……。
いや、そんなことはないか。
いつもの颯太の言葉足らずだろう。
今までにも、例えば女の子を勘違いさせたり、先生を激怒させたりと、颯太が言葉足らずで誤解を招くことなんて結構な数あった。きっと今回もそれだろう。
口下手な颯太が僕を助けてくれただけだ。
そうやって、そっと頭の中に浮かんでいた不埒な考えを消して、おにぎりを片手にレジへ向かう。
颯太は飲み物が冷やされているショーケースの辺りをうろうろと見ているようだ。
「おまたせ、颯太」
「ううん、全然。何買ったの?」
「チャーハンのおにぎり」
「……リカも大分変わってるね」
「そう?美味しいでしょ、チャーハン」
「美味しいけど」
そんな言い合いをしながら店を出ると颯太は大きな一口で肉まんを頬張った。
「火傷しないの?」
「もう慣れた」
「火傷してんじゃん。気をつけなよ」
「リカは優しいね」
また颯太は優しく微笑んだ。
いつもそうだ。
颯太は僕と会話しているといつも目尻が垂れた、春の陽気のような暖かい表情で僕を見つめる。
ただでさえイケメンなのに、そんなものを向けないでくれとは思う。
一周回って目に毒だ。
そして、ふと思う。
颯太って僕のことをどう思ってるんだろう。
『こいつは俺のなのであんまり手出さないでください』
この言葉が何故かさっきからやけに頭から離れない。
いっそ本人に聞いてみるか?
でも、僕の自意識過剰だったら恥ずかしいしなぁ……。
「リカ危ないっ!」
「え?」
その大声と颯太が僕を突き飛ばした感覚で僕の意識は現実へと急に戻された。
「わっ!」
そう、女の子の甲高い声が響くと、颯太は曲がり角から突如曲がってきた制服姿の女子高生の自転車とぶつかった。
突き飛ばされた僕の方に横転しようとする自転車から、乗っていた女子高生の背中を受け止め、颯太の方を見る。
「颯太!」
一瞬の出来事すぎて何が起こったのか自分でも理解が追いつかない。
多分、曲がり角で左右を確認し忘れた女子高生が僕にぶつかりそうになっているのをいち早く颯太は察知して、僕を事故から守ってくれたのだ。
「なんともない、大丈夫。リカは?」
颯太はそう言ってすんなりと立つ。
服についた砂を払う仕草はとても自然で、本当になんともないようで安心した。
「僕も大丈夫……あなたも大丈夫ですか?」
「大丈夫です!」
両手で受け止めた女子高生もなんとか無事そうだ。
両手からその女子高生を離しと、颯太は今度は僕の腕を掴んで自分の方へとグッと引っ張った。
「なに、颯太?やっぱりどっか痛めたの?」
「……心、かな」
「……頭打った?」
「打ってない」
なら、本当に何言ってんの?
「私の不注意ですみませんでした!」
女子高生は自転車を起こし、僕らの方に深々とお辞儀をした。
「幸い誰も怪我してないみたいですし、大丈夫ですよ」
「でも、何かお詫びを……」
「本当に大丈夫なんで……な!颯太」
「うん。大丈夫」
二人でいる時は、会話が苦手な颯太の代わりにだいたい僕が話すのが僕らの中で定着化していて、颯太はいつものように僕のすぐ後ろで頷いた。
僕の後ろにいたって180の巨体が隠せるわけないのに、とはいつも思うけど。
「でも……」
「それに大丈夫ですか?周りを確認し忘れるくらい急いでたんじゃないんですか?」
彼女の制服をよく見ると僕らの家の近くの、県内で一番偏差値の高い学校の制服だ。
その学校の生徒は普段の生活態度も優秀なことで知られている。
そんな人が左右もろくに確認せずに爆走してるのだから、きっとなにか理由があるのだろう。
「実は妹が頭打って今病院にいるって言われて……」
「僕らは大丈夫なので早く行ってあげてください」
「でも、周り確認しなかったのは私が悪いですから」
話は平行線になりそうだったが、颯太が「本当に大丈夫だから」と一言僕の後ろから言うと、女子高生はまた深いお辞儀と何度も「ありがとうございます」と言ってまた自転車を漕ぎ始めて去っていった。
「颯太はなんで自転車が来るってわかったの?」
「カーブミラーあるし」
「あ、確かに」
考え事をしていたせいで、僕も周りが全然見えてなかった……。
「リカ、本当に気をつけて」
「ごめん。あと、助けてくれてありがとう。颯太」
「どういたしまして」
また颯太は微笑んだが、すぐに子犬のようなしょぼくれた顔になった。
「でも、肉まん落としちゃった」
そのしおらしい顔がさっきの頼りがいのある姿と比べて、なんだか面白くってクスッと笑ってしまう。
「もう一回買いに行こう!僕が奢るよ。助けてくれたお礼」
「いいの?」
颯太は顔をぱあっと明るくさせ、その姿に少しドキッした自分がいた。



