「おはよう。リカ」
「おはよう……なんでいるの?」
朝、枕元で鳴るアラームを無視して寝続けているととんできた母の声で目を覚まし、一階に降りるとこの男は居た。
庭瀬颯太。
僕の小学生からの幼なじみ。
180cm以上ある高身長、華奢、イケメンという絵に書いたような男だ。
一方の僕は、身長も165cm程度しかなく、よく女の子みたいな顔だと言われるような男だから立つ瀬がない。
彼の唯一の弱点として、ほんの少しだけ、人と話すのが苦手だが、そこは周りがクールキャラだとよく勘違いするせいで本人には全く影響がない。
もっとも、僕にだけは普通に接することができるみたいだけど。
本人曰く、「リカとはずっと一緒にいるから慣れた」とのこと。
「このままだと高校遅れるよ」
「え?もうそんな時間……てか、毎度のことながらなんで颯太はうちで朝ご飯食べてんの?」
そもそも、高校だって一緒に登校する約束したわけじゃないのに、入学式の日から毎朝僕の家に来てるし……。
そう考えている間にも颯太はもぐもぐとサンドイッチを頬張っている。
「リカ待ってる間暇だし。それにリカのお母さんのご飯が美味しいから」
「あら!颯太君ったら口が上手いんだから!」
「おかわりっていただけますか?」
「育ち盛りなんだから、遠慮せずにたくさん食べなさい!ほら、あんたもさっさと食べる!」
「う、うん……」
颯太も母さん、いつの間にあんなに仲良くなったんだ?
僕より颯太の方への態度の方が優しい気が……。
「リカも座りなよ」
「え、あ、うん!」
促されるまま颯太の隣に座ってたまごのサンドイッチにかじりつく。
「リカ、口元たまごついてる」
「じ、自分で取るから!」
僕の口元に伸ばそうとしている颯太の細くて長い指を途中で払い除け、口元を拭った。
※
その後急いでサンドイッチを口に詰め込み、時間ギリギリになって僕らは慌てて家を出た。
「二年生になって初日で遅刻は洒落にならない……」
「リカが寝坊するから」
颯太と小走りで並走しながら学校へ急ぐ。
家が中途半端な距離にあるせいで自転車通学になれなかったのは未だに許せていない。
おかげで、朝ご飯を食べたあとだから横腹が痛い。
「それと颯太!分かってるよね?」
「何が?」
「教室では『リカ』って呼ばないでよ」
「『リツカ』って呼べばいいんでしょ?分かってる」
元々僕の名前は、七瀬立華だ。
立つ華と書いてリツカ。
リカとは、小学生の頃のあだ名だ。
といっても、そのあだ名は僕にとってあまりいい思い出ではないけれど。
誰かが僕の名前を間違えてリカと呼び、僕の見た目も相まってまるで女の子みたいだと言われていじられてきたから。
ただ、颯太だけは決して僕の名前をいじらなかった。
颯太も僕のことをリカとは呼ぶものの、その他大勢の人たちとは違う。
なにか、言い表せないような、暖かい何かが込められている気がした。
客観的に見ても颯太は悪気があってその名前を使っている訳では無いし、颯太本人もリカと呼ぶのを気に入っているらしいので、僕は颯太にだけリカと呼ぶことを例外的に許している。
人前ではリツカと呼ぶという制限付きで、だが。
「分かってるなら大丈夫。お願いね、颯太」
そういえば、僕らが急激に仲良くなった理由も確かこのあだ名が理由だったっけ。
颯太だけが、僕をからかわずにいてくれて、一緒にいるのが楽だったから。
「うん。でも、二人きりの時は『リカ』って呼んでいいんだよね?」
「まぁ……本当に二人きりの時なら」
「二人だけの秘密だね」
「その言い方やめっ……なんでそんなニヤニヤしてんの!?」
「別に。スピードあげるよ、リカ」
「あ、ちょっと待って!」
僕は、今の颯太とのこの関係が心地よい。と思う。
「おはよう……なんでいるの?」
朝、枕元で鳴るアラームを無視して寝続けているととんできた母の声で目を覚まし、一階に降りるとこの男は居た。
庭瀬颯太。
僕の小学生からの幼なじみ。
180cm以上ある高身長、華奢、イケメンという絵に書いたような男だ。
一方の僕は、身長も165cm程度しかなく、よく女の子みたいな顔だと言われるような男だから立つ瀬がない。
彼の唯一の弱点として、ほんの少しだけ、人と話すのが苦手だが、そこは周りがクールキャラだとよく勘違いするせいで本人には全く影響がない。
もっとも、僕にだけは普通に接することができるみたいだけど。
本人曰く、「リカとはずっと一緒にいるから慣れた」とのこと。
「このままだと高校遅れるよ」
「え?もうそんな時間……てか、毎度のことながらなんで颯太はうちで朝ご飯食べてんの?」
そもそも、高校だって一緒に登校する約束したわけじゃないのに、入学式の日から毎朝僕の家に来てるし……。
そう考えている間にも颯太はもぐもぐとサンドイッチを頬張っている。
「リカ待ってる間暇だし。それにリカのお母さんのご飯が美味しいから」
「あら!颯太君ったら口が上手いんだから!」
「おかわりっていただけますか?」
「育ち盛りなんだから、遠慮せずにたくさん食べなさい!ほら、あんたもさっさと食べる!」
「う、うん……」
颯太も母さん、いつの間にあんなに仲良くなったんだ?
僕より颯太の方への態度の方が優しい気が……。
「リカも座りなよ」
「え、あ、うん!」
促されるまま颯太の隣に座ってたまごのサンドイッチにかじりつく。
「リカ、口元たまごついてる」
「じ、自分で取るから!」
僕の口元に伸ばそうとしている颯太の細くて長い指を途中で払い除け、口元を拭った。
※
その後急いでサンドイッチを口に詰め込み、時間ギリギリになって僕らは慌てて家を出た。
「二年生になって初日で遅刻は洒落にならない……」
「リカが寝坊するから」
颯太と小走りで並走しながら学校へ急ぐ。
家が中途半端な距離にあるせいで自転車通学になれなかったのは未だに許せていない。
おかげで、朝ご飯を食べたあとだから横腹が痛い。
「それと颯太!分かってるよね?」
「何が?」
「教室では『リカ』って呼ばないでよ」
「『リツカ』って呼べばいいんでしょ?分かってる」
元々僕の名前は、七瀬立華だ。
立つ華と書いてリツカ。
リカとは、小学生の頃のあだ名だ。
といっても、そのあだ名は僕にとってあまりいい思い出ではないけれど。
誰かが僕の名前を間違えてリカと呼び、僕の見た目も相まってまるで女の子みたいだと言われていじられてきたから。
ただ、颯太だけは決して僕の名前をいじらなかった。
颯太も僕のことをリカとは呼ぶものの、その他大勢の人たちとは違う。
なにか、言い表せないような、暖かい何かが込められている気がした。
客観的に見ても颯太は悪気があってその名前を使っている訳では無いし、颯太本人もリカと呼ぶのを気に入っているらしいので、僕は颯太にだけリカと呼ぶことを例外的に許している。
人前ではリツカと呼ぶという制限付きで、だが。
「分かってるなら大丈夫。お願いね、颯太」
そういえば、僕らが急激に仲良くなった理由も確かこのあだ名が理由だったっけ。
颯太だけが、僕をからかわずにいてくれて、一緒にいるのが楽だったから。
「うん。でも、二人きりの時は『リカ』って呼んでいいんだよね?」
「まぁ……本当に二人きりの時なら」
「二人だけの秘密だね」
「その言い方やめっ……なんでそんなニヤニヤしてんの!?」
「別に。スピードあげるよ、リカ」
「あ、ちょっと待って!」
僕は、今の颯太とのこの関係が心地よい。と思う。



