その夜、雨が降っていた。
店の外では、しとしとと雨が降り続いている。
美咲美は、盃を持ったまま外を眺めた。
「…帰るのが、面倒ね。」
悠慎は鍋の火を落としながら、ちらりと彼女を見た。
「…なら、もう少し飲んでろ。」
「そうする。」
美咲美は微笑みながら、盃を傾ける。
店の中には、二人だけ。
静かな時間が流れる。
この時間が、特別なものになっていることを、二人とも気づいていた。
それでも、お互いに言葉にしない。
ただ、一緒にいることが、答えになっていた。