三日目の夜。
静かな店の引き戸が開いた。
「こんばんは。」
聞き慣れた声が響く。
悠慎は、わずかに視線を上げた。
美咲美が、何事もなかったようにカウンターに座る。
「お前…。」
「ふふ、驚いた?」
美咲美はくすくすと笑いながら、彼を見つめる。
「ちょっと、試してみたの。」
「…何を。」
「私がいなくなったら、あなたはどうするのか。」
悠慎は、静かに美咲美を見つめる。
そして、深く息をついた。
「…くだらんことをするな。」
「ふふ、でも、あなたは気にしてたでしょ?」
悠慎は何も言わなかった。
「あなた、私がいないと寂しいんじゃない?」
美咲美は、からかうように笑う。
しかし、悠慎の表情は変わらない。
「…座れ。」
「ふふ、命令ね。」
美咲美は素直にカウンターに座り、盃を取る。
「じゃあ、今日のおすすめは?」
「…肉じゃがだ。」
「いいわね。食べたい。」
悠慎は黙って調理を始める。
だが、その手つきは、どこかいつもより丁寧だった。
――彼は、もう認めるしかなかった。
彼の料理は、美咲美のためにある。
それが、答えだった。