それからも、美咲美は変わらず「楓庵」に通った。
彼女がそこにいるのは、もはや当たり前の光景になりつつあった。
「今日はね、すごく冷えるわ。」
「…なら、豚汁にするか。」
「ふふ、お願い。」
そんな何気ないやり取りの中で、二人の関係はゆっくりと変わっていった。
悠慎は、彼女の表情の変化に気づくようになった。
疲れている日は、あまり口数が多くない。機嫌が良い日は、少しだけ冗談を言う。
彼はそれを何も言わずに受け入れ、ただ黙々と料理を作る。
そして、美咲美もまた、悠慎のわずかな変化に気づくようになった。
彼は相変わらず無口だが、彼女のために作る料理には、確実に「特別なもの」があった。
それが何なのか、言葉にしなくても、お互いに感じ取っていた。